「おかげ」と「せい」の使い分け

何かの原因があって結果が生じたときに、その原因について話をするために使われるのが「おかげ」と「せい」です。どちらも同じように使われていますが、個人的に使うだけなら大きな問題はなくても、メディアを通じて使われているとなると見逃すことはできません。ゲストとして登場しているタレントや、タレントのMC(番組進行者:master of ceremonies)は、どちらも区別なく使っています。それで終わらず、プロのアナウンサーまでが「せい」と言うべきときに「おかげ」を使っているシーンを、よく見聞きします。
「おかげ」は、御陰と漢字で書くように神仏や他人から受けた恩恵や力添えのことを指します。少なくともよい結果があったときに使う言葉です。それに対して「せい」(所為)はよくない原因・理由によって起こったことを伝えるときに使う言葉です。あなたのおかげで成功した、というのが正しい使い方です。あなたのせいで失敗したという使い方が正しいのであって、悪い結果になったことに「おかげ」を使うのは違和感があるというよりも間違いです。
この話をしたときに、「おかげ」と「せい」を混同していることを指摘されたと思い込んだのか、テレビのディレクターから「お蔭参り」という言葉があるではないか、と反発の意見がありました。この言葉は、ある特殊な世界の方々が逮捕される原因となった人に仕返しをするという意味で使われることがあります。そのために「おかげ」を「せい」のような使い方をしているということです。しかし、お蔭参りは、元々は江戸時代に伊勢神宮に集団で参拝することを指す言葉で、神様のおかげで健康に過ごせている、商売がうまくいっている人が、そのおかげを感謝するために伊勢まで参宮することを指しています。
神社は、お願いに行くところではなく、感謝をしに、お礼をしに行くところだということですが、そのことは置いておくとして、“逮捕されて、それをきっかけに真人間になれたことを感謝して”行うのがお蔭参りの本来の使い方で、「おかげ」を悪いことの意味で使うのを是正する裏付けではないはずです。皮肉の意味で「おかげ」を使っているのです。
「おかげ」と「せい」の使い分けをタレントなどに徹底するのは面倒なので、「のために」という、どちらの意味にもなる言葉を使うように話しているというディレクターもいました。あなたのために客が増えて繁盛している、という使い方と、あなたのために客が増えて混雑して忙しい、という使い方をしているわけですが、「ために」は、本人の受け取りようで、よくもなれば悪くもなるということにもなります。
受け取りようで違うのも面倒なので、「ゆえに」を使ったほうがよいのでは、という話も出ました。「結果」という言葉にしている場合もあります。
成功したら自分のおかげ、失敗したら他人のせい、という考えをする人もいますが、できることなら自分にとっても他人にとっても「おかげ」と言えるような人でいたい、立場でいたいとの思いから、メディア関係者には情報発信をさせてもらっています。