「消化しやすいものを食べよう」という話を“鵜呑み”にするな

年齢を重ねると消化液が分泌されにくくなります。日本人の場合、特に分泌量が減るのは脂肪を分解するために必要なリパーゼと胆汁酸です。胆汁酸は十二指腸から分泌される胆汁に含まれる消化酵素の働きを補助する成分です。欧米人や北方アジア人などは歴史的に肉食を続けてきたことから、肉に含まれる脂肪を分解して、エネルギー化する能力が優れています。それに比べると日本人は歴史的に肉食が少なく、日本人が国民的に肉を食べるようになったのは明治時代になってからのことなので、遺伝子的には日本人は肉に含まれる脂肪酸をエネルギーにする能力が低くなっています。
日本人には肉類は合わないので、消化しやすい食品を食べることが健康づくりの基本になるということを言う専門家もいます。ここでいう専門家は医学的な栄養の専門家である病院の管理栄養士のことではなくて、医師のことを指しています。病院では、医師の食事箋(食事療法の指示内容)に基づいて、管理栄養士がメニューにして、これを調理師が食事に展開しています。その流れからいうと医師は食事療法の専門家、栄養の専門家と思われがちですが、医学系大学81校の中で栄養学を学ぶことができるのは20校でしかなくて、しかも選択で学ぶのではなくて義務化されているのは、たった1校という状況では、医師であるだけで専門家と呼ぶことには抵抗があります。
高齢者になると消化力が低下するので消化されやすいものを食べようというのは、一見すると正論のように思われるかもしれませんが、消化しやすいものは、あまり噛まなくてもよい食べ物で、飲み込みやすい、つまり鵜呑みにできる食べ物ということになりそうです。しかし、噛むことは消化液を多く分泌させることに加えて、食べすぎを抑える満腹中枢の働きを高めてダイエットにつながることになり、さらに認知機能を高めることにもつながります。それなのに、すぐに飲み込めるような食品を使い、飲み込みやすい料理にすることは、全体の健康効果からいうと、よいこととは言えません。
一つのことに注目してコメントするのではなく、幅広く考えて話をするということは“専門家”の先生方には強く意識してほしいことです。