“おお”と“だい”で意味が違う同じ漢字

同じ漢字なのに読み方が違い、意味も違うものとして“大人気”を前に紹介しましたが、複雑な日本語には、まだまだ多くの「異音意義」の言葉があります。落語や歌舞伎、狂言で最後に演じるものは“おおぎり”と言います。漢字では「大切」と書かれますが、落語で“おおぎり”といえば大喜利を思い浮かべる人が多いかと思います。こちらの大喜利は寄席の余興で、座布団を重ねていく人気テレビ番組が有名です。本来は寄席の演目が終了してから、別枠で演じられる出し物です。最近では、舞台の演じものだけでなく、物事の終わりを示す言葉として使われるようになっています。
「大切」と書かれたら、大抵の人は“たいせつ”と読みます。“だい”ではなく“たい”ですが、濁点(゛)があるなしは、普通に使い方に違いはないものです。“たいせつ”は今さら説明することもないようですが、実はよく知られていない意味もあります。大いに尊重すること、大いに重要なこと、大いに愛すること、丁寧に扱うこと、というのは理解されていることですが、愛情とか非常に切迫すること、危篤に陥ることとなると、まだ広まってはいません。
危篤となると、これは「大事」です。この「大事」は普通は“だいじ”と読まれて、重要なもの、大切なものという意味合いのほかに、普通でない重大な事件、非常のこと(容易でないこと、危ういこと)を示すときにも使われます。さらに、仏教の世界では、出家して悟りを開くことにも使われています。先に危篤を「大事」と書いたのは、これは“おおごと”と読むつもりだったのですが、“おおごと”も“だいじ”も意味合いに違いはないことがわかります。
このような重大な出来事については是非とも「大声」で広めたいところですが、この場合は“おおごえ”と読んで、大きな声を指しています。これを“たいせい”と読むと、大きな声を意味するだけでなく、高雅な音律、上品な音楽、偉大な道理を含んだ言葉という意味でも使われます。
ついでに、もう一つ紹介しておくと「大勢」は普通は“おおぜい”で、多くの人を表しますが、これを“たいせい”と読むと、人数が多いだけでなくて、大きな威勢、大きな権勢といった意味になります。