たくさん食べたいから糖尿病患者は嘘をつく

病気の人は自分の状態を少しでもよいように言いたがる傾向があります。認知症患者が自分をよく見せようと思って、介護認定の検査のときに本当の状態を伝えないことから、低い認定となって家族の介護の負担が高まるというようなこともあります。ところが、糖尿病の人となると違った反応をする人がいて、血糖値の高さ、糖尿病の期間の長さ、合併症の苦しさなどを隠さずに話す“糖尿病自慢”もみられます。
糖尿病の治療についても自慢が見られます。糖尿病は食事療法をしっかりと守り、運動療法にも取り組んでいることを前提として治療薬の種類と量が決められます。血糖値やヘモグロビンA1cの数値だけで医療薬が決められているわけではないのです。医師から食事のこと、運動のことを聞かれると頑張っている自分を主張したくて、食事制限もしています、運動もしていますということを言うのですが、これが問題を起こす原因となっています。
食事療法を守っていないのに守っていると言われると、その前提で血液検査の結果を見ます。それで血糖値が治療レベルの高さであったら、しっかりと食事療法を実施しているのに血糖値が高いということで強めの薬が使われることになります。運動指導についても同じことがいえるわけですが、食事療法も運動療法も実施していると言われて、それで血糖値が高かったら、もっと強い薬が使われる可能性もあります。
どうして、そんなことを言って、自分が困るようなことをするのか疑問ではありましたが、インターバルウォーキングの講習の場で糖尿病の方に前述のような話をしてみたところ、「たくさん食べたいからに決まっている」と言う人がいました。強い糖尿病の薬を飲んでいれば、食事の量が増えても、血糖値が抑えられて甘いものを食べても大丈夫と考えているようです。そんな考えをしたくなるほど厳しい食事制限を我慢しているということなのでしょうが、そんな間違った考えが出てくるのは、「糖尿病は死ぬような病気ではない」と思っているからです。
確かに血糖値が高いだけで死ぬようなことはないのは確かで、血糖値が高くなっても特に痛みなどがあるわけではありません。しかし、血糖値が高い状態が長く続くと血管の老化が進み、合併症が起こるようになります。合併症が出てしまうと元に戻ることはできなくなり、三大合併症の腎症では亡くなる人もいます。このまま放置しておくと合併症が起こるという事実を伝えても、「脅かしているだけでは」という反応があるだけで、真剣に対応してくれる人は、あまりいません。というよりも皆無と言ってもよいほどです。
強い糖尿病の治療薬を使うことで血糖値が抑えられていれば合併症は出にくくなることはある話ですが、その治療薬の範囲を超えて、自由に食事をしたり、運動を控えたりするようなことになると、高血糖状態が続くことになり、気づかないうちに血管にダメージを与えることになります。気づかないうちという表現は糖尿病の特徴を示す言葉で、身体の中で起こっている変化に気づく人は、ほとんどいません。
糖尿病は全身病とも呼ばれていて、他の全身病である高血圧、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症など)が合わさると死につながる疾患(心血管、脳血管疾患)のリスクが大きく高まります。こういったことを自覚して、血糖値が上昇しても、好きなものを食べられるほうがよいと考えるようなことをしないことを望んでいるのです。