ねぎまで代謝が高まるのか

夏を乗り切るための焼き鳥をテーマにしたテレビ番組があり、それを見ていた他局のディレクターから「ねぎまは本当に鮪(まぐろ)なのですか」という基本的は質問がありました。このようなことはネット検索で簡単にわかるはずですが、日頃の“身から出たサービス”のせいか、辞書がわりの質問も増えています。簡単なことなので結論を述べると、江戸時代の屋台で簡単に食べられる料理として鮪とねぎを交互に串に刺したものが売られていました。その前には、鮪とねぎを煮込んだ葱鮪鍋があり、これを略した「ねぎま」が焼き鳥ならぬ焼き鮪にも使われるようになりました。
江戸時代には鮪は“猫またぎ”と呼ばれる鰯や秋刀魚と並ぶ下魚でした。冷蔵技術がなかった時代には腐りやすい鮪は、すぐに調理して、簡単に食べられる形で売るしかなかったのです。冷蔵技術の進歩につれて鮪は高級魚になり、鮪の代わりに鶏肉をねぎと一緒に串に刺して焼いたものが庶民の味になっていったということです。そのときに「ねぎま」という言葉だけが残り、今では「ねぎ間」とメニューに掲げる店もあるくらいで、勘違いが広まっています。
この話は当然のことを伝えただけですが、同じ番組を見ていて、気になったこともディレクターと話をしました。その番組では、ねぎにはアリシンが含まれていて、これがエネルギー代謝を高めるという説明をしていて、にんにくにも玉ねぎにもアリシンが含まれているので、どれを鶏肉と一緒に焼いて食べてもよいというコメントを医師がしていました。ねぎ類に含まれるのはアリインという成分で、アリナーゼという酵素と一緒になるとアリシンとなって臭いのもとになると同時に、抗菌性を発揮して、ビタミンB₁の吸収性も高めてくれます。初めからアリシンが含まれているわけではなく、刻んだり擦り下ろしたりするとアリシンとアリナーゼが反応してアリシンになるのです。
アリシンはビタミンB₁と結合するとアリチアミンになり、吸収力が高まります。体内ではアリシンとビタミンB₁に分解されますが、ビタミンB₁は糖質の代謝を高めるので、糖質が多くエネルギーとなってパワーが出るのです。ここの説明がないまま「アリシンはニンニクにも玉ねぎにも含まれている」という話をしていましたが、ねぎも玉ねぎも刻んでもニンニクのような強烈な臭いが出ないことからも、アリインが少ないことがわかります。
しかも、アリナーゼは加熱によって破壊されるので、焼き鳥として食べたら、アリシンになりようがなく、正しい情報を正しく伝える責任があるテレビ局としては、どうなんだろうか、という話をさせてもらいました。