インスリンが充分なら血糖値は安定するのか

糖尿病は「インスリンの分泌量が不足しているか、インスリンが足りていても作用不足のために血糖値が上昇する病気」と一般には説明されています。前者だけなら理解しやすいのですが、後者は理解できないという人も少なくありません。インスリンが足りなくても足りていても糖尿病になるというのは、健康に関心を持って勉強している方でも、なんとなくわかっても、説明はできない、ということがあるようなことです。
膵臓から分泌されるインスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンで、血糖値が上昇すると分泌量が増えます。食べすぎ、飲みすぎで血液中にブドウ糖が多くなりすぎると膵臓はインスリンを分泌し続けて、限界を越えると急に分泌量が大きく減ります。これが糖尿病の始まりとされます。血糖値が上昇しすぎて糖尿病と診断された人でも、充分とはいえないまでもインスリンがしっかりと分泌されている人はいます。それなのに糖尿病になるのは、先に紹介した「インスリンの作用不足」です。これはインスリンのほうに問題があるのではなくて、インスリンを使ってブドウ糖を取り込んでいる細胞のほうに原因があります。
細胞にはブドウ糖を取り込みに必要な受容体があり、この受容体がインスリンの刺激を受けると細胞膜にタンパク質のGLUT4が移動してきて、ブドウ糖が取り込まれます。インスリンが不足すると、この動きが弱まってブドウ糖が取り込まれにくくなります。インスリンが分泌されていても、細胞の受容体の反応がよくないとGLUT4が動かなくなり、ブドウ糖が取り込まれなくなります。この状態をインスリン抵抗性といって、日本人に多いタイプとなっています。
そのタイプの人は血糖値が下がらないのかというと、そんなことはありません。運動をするとブドウとが急に多く必要になり、ブドウ糖を取り込むためにGLUT4が細胞膜に移動してきて、ブドウ糖の取り込みが始まります。糖尿病患者にはブドウ糖や脂肪の取りすぎを抑えるための食事制限とともに、運動指導が行われるのは、こういったメカニズムがあるからです。