インスリン注射で認知症は予防できるのか

前回の糖尿病と認知症の関係の話を受けて、「インスリン注射をすれば認知症は予防できるのでは」という問い合わせをしてきた雑誌記者がいました。インスリン不足から脳細胞に取り込まれるブドウ糖が減るわけですが、脳のエネルギー源はブドウ糖だけで、脳で使われるブドウ糖は全身で使われるエネルギー源うち20%ほどを占めているので、そんな発想が出てくるのもわからないではないところです。
糖尿病が悪化してくるとインスリン注射は使うのか、それとも抗血糖剤と食事療法、運動療法を続けるのかの判断が迫られることがあります。できればインスリン注射は避けたいという人がいる中にあって、インスリンが充分に分泌されていれば脳の機能の低下も防げるのだから使いたいと考える人も出てきます。インスリン注射を使えば認知症にならないで済むという人までいて、「認知症予防のために早くインスリン注射を使いたいけれど、どうしたらいいか」と血糖値を高めることを言い出した患者と、かつてセミナー会場で話をしたことがあります。
糖尿病は認知症のリスクが高くなり、インスリン注射を使えば糖尿病がよくなり、認知症も防げるという感覚になるのもわからないではありません。しかし、それはすすめられることではありません。認知症予防のためにインスリン注射を使うことは日本では許されていません。インスリン注射で血糖値が下がれば糖尿病がよくなったわけではなくて、食事療法と運動療法を優先させて血糖値を安定させて、膵臓から分泌されるインスリンの量を増やすことが根本的な解決法となります。
糖尿病で認知機能が低下するのは、あくまで脳細胞を働かせるためのエネルギーが充分に作られなくなるからです。ブドウ糖が取り込まれるようになっても、ブドウ糖はエネルギー源であって、これを材料にして脳細胞内のミトコンドリアの中でエネルギーとしなければなりません。そのために必要なのが、ブドウ糖をミトコンドリアに取り込むと同時にミトコンドリアの中での代謝を高める働きがあるR‐αリポ酸です。R‐αリポ酸は天然型のα‐リポ酸を指しています。
ミトコンドリア内での代謝には補酵素のコエンザイムQ10が必要になります。この2種類の成分は体内で合成されているものの、年齢を重ねるにつれて合成量が減っていって、これが代謝を低下させることになります。代謝の低下から太りやすくなっているときには、脳細胞の代謝も低下してエネルギー量が減ります。この作り出されたエネルギーを使って、脳細胞は本来の働きをしているので、R‐αリポ酸とコエンザイムQ10が不足しないようにすることが血糖値を下げるために同時に重要だということを伝えさせてもらっています。
α‐リポ酸、コエンザイムQ10については、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。