ウォーキングは認知機能を高めるのか

ウォーキングのような軽い運動を継続することは認知機能の向上によいという研究成果は数多くあります。単純に考えても、血流が盛んになって脳に多くの酸素と栄養素が送り届けられて、それだけでも脳の働きがよくなりそうな感じがします。日本メディカルダイエット支援機構では、公的機関や大学などの研究機関の発表をピックアップして毎週1回、関係先の研究者や団体役員などに発信する健康情報メールを8年半にわたって続けていますが、その中にも認知機能に関する研究データはたびたび出てきます。一時期は腸に関する研究発表が多かったのですが、今は認知機能の発表が目立っています。
うつ病や認知症、注意欠陥障害者などに共通して低下が認められる実行機能に対して一過性の中強度運動に効果がある、前頭葉が担う実行機能(注意・集中、判断、計画・行動を調節する高次認知機能)が短時間の低強度運動でも向上する、ストレスフリーの低強度運動が海馬の記憶保持・想起を高める、Ⅱ型糖尿病の合併症として知られる海馬機能の認知機能低下のメカニズムとして神経細胞への乳酸輸送を担うMCT2蛋白質の低下とグリコーゲン貯蔵量の増加が起こることを新たに見出した、高齢者は4週間のサーキット運動トレーニング(有酸素運動と筋肉トレーニングを30秒間ずつ交互に実施)が実行機能、エピソード記憶、処理速度など広範囲な認知機能を改善する、音楽に合わせて運動をする音楽体操が認知機能の維持・改善に有効、といったものです。
こういう結果が発表されるたびに一生懸命に歩こう、歩数を増やそうという人が出てくるのですが、高齢者の歩きすぎは危険も伴います。群馬県中之条町の高齢者を対象とした「中之条研究」では、1日に8000歩の歩行と、そのうち20分は中強度の歩行をすることが健康によく、認知機能も高めることが明らかにされています。その一方で、1万2000歩を超えると健康によくないことも確認されています。
それ以外にも、紫外線による皮膚の劣化、心臓の拡張・肥大、不整脈、膝痛・腰痛、脱臼、骨折、足関節痛、足の変形、筋肉・腱の断裂や損傷といったリスクもあげられています。認知機能を高めるために頑張って歩いていたはずなのに、転んでために頭部外傷や脳しんとうを起こして認知機能が低下するという危険性も訴えられています。
歩きすぎで転んだりすることがなければ大丈夫という考えもあるでしょうが、適度な運動で止めておくのが身体のためにもなり、脳の働きを維持するためにもなるということを心に刻んで、無理をしないウォーキングを継続してほしいのです。