カロリー制限と糖質制限の認識ギャップ

糖尿病対策の食事療法といえば1日の食事摂取量を全体的に制限するカロリー制限が基本として、患者などに指導されています。カロリーという言葉は今では、あまり使われず、摂取エネルギー量制限というのが正式な言葉となっています。どちらの言葉でも主張していることは同じなので、ここでは一般的なカロリー制限を使うことにしますが、糖尿病対策にはカロリー制限ではなく、糖質制限がよいと主張する医師も少なくありません。
カロリー制限はエネルギー源となる糖質と脂質を減らします。それに対して、糖質制限は脂質が制限されずに、糖質だけの制限なので、後者のほうが楽であり、糖尿病対策の食事制限が達成されやすいという主張となっています。糖質制限では、脂質を制限しないどころか、むしろ脂質を増やすこともあります。これではカロリー制限ではなくて、エネルギー量が高い脂質が増えることによってカロリーが増えてしまうことになるので、糖質制限のほうがよいとは言えないはずです。
しかし、糖質制限をすすめる方々は、糖尿病に影響する血糖値は血液中のブドウ糖の量を示しているので、ブドウ糖が多く含まれる糖質を減らせば、血糖値が下がるので効果があり、問題がないということを言います。血糖値の上下の変化だけを考えるなら、それでもよいのでしょうが、糖尿病に大きく影響するのはインスリンの分泌です。ブドウ糖の量が多くなると血糖値を下げるためにインスリンが多く必要になり、血糖値が高まるほどインスリンを分泌する膵臓に負担がかかり、高血糖が続くと膵臓が疲弊して、インスリンが分泌されにくくなります。これが糖尿病の始まりです。
インスリンは血糖値が高くなったときだけでなく、血液中の中性脂肪が多くなったときには中性脂肪を脂肪細胞の中に蓄積するためにも使われます。肉食が多い欧米人はインスリンが多く分泌されるのに対して、日本人は歴史的に脂肪摂取が少なかったことから分泌量が少なくなっています。それなのに食事で摂る脂肪の量が多くなると膵臓に負担がかかってインスリンが分泌されにくくなり、そのために血糖値が下がりにくくなって糖尿病になりやすいのです。このことを知ると、カロリー制限よりも糖質制限のほうがよいとは言えなくなるはずです。