メタボリックシンドローム対策は人工透析対策だった

健康づくりの目玉施策は、一世を風靡したメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)からロコモティブシンドローム(運動器症候群)へと移り、今では認知症対策へと移ってきました。日本メディカルダイエット支援機構が交流する研究者の中には、それぞれの治療施設を流行に合わせたのか、と思えるほど、メタボ→ロコモ→認知症と移ってきた方もいます。メタボリックシンドロームは2008年から始まった特定健診制度に合わせて発表されましたが、「10年ほどの研究で、すでに仕組みがわかり、解決法が確立されたので、自分が活躍できる場に軸足を移した」と言っていましたが、メタボから移る前にやってほしかったことがあります。それは、メタボリックシンドロームが始まるきっかけを明らかにすることです。
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪が多く蓄積されることによって、内臓脂肪から分泌される生理活性物質が増え、そのために血圧や血糖値の上昇が見られるようになるもので、血管に負担がかかることから動脈硬化対策として大注目されました。腹囲(ウエストサイズ)は内臓脂肪の蓄積の指針となることから、これを減らすことが第一条件となり、腹囲が基準値以上の人は血圧、血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値を正常範囲内に保つことの重要性が示されました。「要は太っていなければよい」という認識をする人が増えました。
これは間違いがないことですが、なぜメタボリックシンドローム対策が提言されたのかというと、人工透析患者が増えすぎて、国の医療費が大きく増えたことが始まりでした。人工透析の医療費は1か月に40万円ほどで、このうち3割負担なら12万円ほどを個人が支払うことになります。透析患者は33万人ほどなので、国の負担は年間1兆6000億円にも及びます。
人工透析は腎臓病が悪化して、腎臓の働きだけでは解毒ができなくなり、血液中の毒素が増えるので、これを週に2〜3回の人工透析によって取り除くというものです。腎臓の機能が低下する原因は、以前は腎臓病が一番でした。それが今では糖尿病の合併症である糖尿病性腎症のほうが多くなり、人工透析を減らすためには糖尿病を減らすことが重要であるということになりました。糖尿病は血管の新陳代謝を低下させ、血管の老化を進めていきます。腎臓で濾過をする部分は血管の一部で、腎臓病よりも糖尿病性腎症のほうが濾過の能力を大きく低下させていきます。
糖尿病の原因を探っていったところ、従来の食べすぎ、運動不足による血糖値の上昇に加えて、内臓脂肪が多く蓄積することによって分泌される生理活性物質が影響していることが明らかになりました。そこで内臓脂肪を減らすと同時に、血管に負担をかける血圧、血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値を下げ、LDLコレステロール値を増やす作用があるHDLコレステロール値の低下を防ぐことが叫ばれるようになったわけです。
このメタボリックシンドローム対策によって、糖尿病性腎症の患者が減って、人工透析にかかる国の負担が減ったのかというと、2年後には少しは減ったものの、現在ではスタート時よりも増える結果となっています。「この事実を隠すため」という意地悪な分析をしていたジャーナリストもいましたが、そこまでいかなくても、あまり触れてほしくないことであり、そのムードがメタボリックシンドロームの始まりをあやふやにさせたところはあります。