充分な休養とは何か

「栄養・運動・休養」は健康づくりの基本として厚生省の時代から言い続けられています。厚生省と労働省が統合して厚生労働省になった2001年以降、運動の重要性が強く認識されるようになり、2010年に「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」が健康増進の標語として採用されました。「栄養・運動・休養」の時代から、それぞれは健康づくりの3要素として掲げられるだけでなく、どの程度のことが求められているのかを示すために、「適切な栄養」「適度な運動」「充分な休養」ということも掲げられました。
充分に休養を取るといっても、ただ身体を休めていればよいというわけではなくて、それ以外にも入浴やリラックスタイムを設けることが大切で、一般には30分ほどの入浴時間、夕食から就寝までの間に30分ほどは心身を休める時間が必要と言われています。このことは1日の健康習慣として「1日に30食品」「1日に30分の運動」と並んで、「1日に30分の休養」として示されました。
これだけで充分な休養になるのかというと、ストレスが溜まりに溜まった状態で夕食後に身体を休めたとしても自律神経の交感神経が過剰に働いている状態ではリラックス作用のある副交感神経の働きが悪くなって、身体を休めたつもりでも脳も内臓も休んでいない状態になりかねません。興奮状態で食事をすると、胃液の分泌量が減り、食後に血糖値が上昇したときに分泌されるインスリンの分泌量も減少します。インスリンはブドウ糖を細胞に取り込んでエルギーとして使う働きとともに、余分な栄養を脂肪に合成して重要なエネルギー源として蓄積するという重要な作用があります。
日が昇っている時間帯には交感神経がメインに働き、日が沈んでからは副交感神経がメインに働くという切り替えが体内では行われています。そのため夕方以降は、副交感神経によって脳も内臓も休みモードになり、寝つきやすくなり、深い眠りにつけるようになり、翌朝には心地よい目覚めが得られるという流れになっています。夕方以降にリラックスして食事をして、30分間のリラックスタイムを作り、ゆっくりと入浴すれば、それで充分な休養ということではありません。入浴も温度によって自律神経の働きは逆になります。40℃以下の入浴では副交感神経が強く働き、42℃以上では交感神経が強く働くようになります。
ダイエットをしようと考えて、高めの温度で入浴すると交感神経に切り替わって、さらに消費エネルギー量が増えるようになりますが、その後に食事をすると胃液とインスリンが減って、太りにくくなるのは確かなことです。しかし、これではリラックスした状態で過ごすことはできにくくなります。ダイエットが必要な人には、この方法をすすめることはありますが、その場合には就寝前に一気に副交感神経の働きをメインにできるように、テレビは早めに消す、パソコンやスマホも早めにオフにする、リラックス効果がある飲み物や音楽を楽しむといった工夫をすることも求められます。
夕方以降は興奮状態にならないようにするほうがよいと頭ではわかっていても、それができないのが現実であるので、積極的にリラックスを求める“アクティブリラクゼーション”も取り入れるべきだと健康志向が強い方々に話をしています。