冷や酒と冷酒は同じものなのか

飲食店で注文した食事のほかに水がほしいときに「お冷をください」と言います。“冷”と字が使われていることは冷たい水ということで、常温の水に氷を入れて出すか、冷水のサーバーから出した冷えた水を出すのが普通と考えている人が多いのですが、本来の“お冷”の意味は常温の水です。そこで常温の水が欲しいときには「水をください」と言えばよいわけです。
お酒を出す店で「お冷」と言ったら、冷酒が出てきたという笑い話をしている人がいました。これに続いて披露されたのは日本酒の冷や酒と冷酒の違いです。今どきのパソコンの変換ソフトでは「ひやざけ」と打つと“冷や酒”と“冷酒”の両方が出てきます。冷や酒のつもりで打ったのに冷酒と変換されたら、間違った意味で伝えられてしまいます。
冷や酒というのは冷えた酒ではなくて、常温の日本酒のことです。冷蔵庫がなかった時代には常温か燗酒で飲むしか方法がなかったので、燗酒に対して冷えているということで冷や酒となったわけです。冷蔵庫の普及で、火入れをしていない生酒も流通するようになったので、冷やしたままで飲むものということで冷酒という言葉が使われるようになりました。生酒でなくても、日本酒は温度によって味わいが違ってくるので、冷やして飲んでおいしいものが作られるようになりました。いわゆる淡麗辛口の日本酒で、吟醸酒の普及もあって、あっさり系の日本酒が好まれるようになったのも冷蔵流通のおかげです。
日本酒の温度の分類といえば冷酒と冷や酒、燗酒と大きく分けられるのですが、これが酒好きの手にかかると、冷酒だけで3種類となります。5℃は雪冷え、10℃は花冷え、15℃は涼冷えとなります。そして、常温の冷やは20℃です。常温は新酒が出される時期の春の気温と同じくらいの温度ということになります。あえてギリギリまで冷やして0℃にしたものは、みぞれ酒とも呼ばれます。
今回は冷えた温度の日本酒の話で、燗酒の話については別の機会に。