冷酒と冷や酒の認識ギャップ

日本酒は冷蔵庫の中で保存されているものは高級品とイメージする人がいて、冷やして飲む“冷酒”を好む人は増えています。冷酒が広まり始めたときに日本酒造組合中央会がリードして「冷酒キャンペーン」を展開したときのこと、電話取材をした放送記者が冷酒をフレッシュと聞き間違いして、そのままテレビ番組で「フレッシュキャンペーン」と出てしまったことがあります。その番組の中で、冷酒のことを「冷や」と言っていましたが、これは間違いです。
“冷や”というのは温めていない日本酒のことで、いわゆる常温を指します。江戸時代には日本酒は燗をして飲むのが常識だったために、燗をしていないものは冷やと呼ばれていました。冷蔵庫が普及するまでは冷蔵して飲むことはほとんどなかったはずで、冷蔵庫ができるまでは夏場に氷を使って日本酒を冷やすというのは贅沢すぎることでした。冷蔵庫で冷酒が飲めるようになったのは、いつなのかというと昭和30年代とのことです。
牛乳は朝に飲むものという常識がありますが、これは昭和30年代に業務用冷蔵庫が導入されて、まだ家庭には普及していなかったときに、気温が上がらない朝のうちに家庭に配り、朝のうちに飲んでいたからです。
余談は、これまでにして常温の話に戻りますが、日本酒の常温は20〜25℃を指しています。5〜15℃は冷酒、30℃以上は燗酒と分類されているのですが、どこまで温めてよいのかという議論があります。限界は77℃とされていて、これを超えるとアルコールが揮発して香りも味も飛んでしまいます。ここまで温められることはなくて、熱燗といっても50℃ほどです。30℃から5℃刻みに命名されていて、30℃は日向燗、35℃は人肌燗、40℃はぬる燗、45℃は上燗、50℃は熱燗、55℃は飛びきり燗といいます。冷酒は5℃ごとに命名されていて、15℃は涼冷え、10℃は花冷え、5℃は雪冷えといいます。
ここまで細かな分類を覚えることはないのですが、日本酒によって飲み頃の温度があり、推奨されている温度で飲んでほしいという意思表示が裏ラベルに記載されている場合には、これに従ったほうがよいということです。