匂いも臭いも自律神経を強く刺激する

このコーナーで臭いの不快感の話を紹介しましたが、雑誌記者から「そんなに臭いに悩まされているのですか」とのメールが来ました。よほど環境がよいところに住んでいる人以外は、臭いは少なからず気になっているはずとの話をしましたが、雑誌記者らしく「なぜ不快な臭いがすると眠れなくなるのか」との質問がありました。臭いだけでなく、温度、湿度、光、音など不快な状態では眠れなくなります。眠りにつけたとしても深い眠りが得られず、“眠っているのに睡眠不足”という状況にもなります。
不快な臭いがあることで心拍数や呼吸数が増え、血圧が上がり、血流も低下するということが起こります。これは自律神経の状態が関係しています。自律神経は交感神経と副交感神経に大きく分けられます。交感神経は興奮系の神経で、臓器や器官などの働きを盛んにする働きがあります。自動車にたとえるとアクセルに該当します。ブレーキに該当するのが副交感神経で、臓器や器官などの働きを抑える抑制系の神経となっています。心臓の鼓動が高まるのは交感神経が働いているからで、その働きすぎを抑えるのが副交感神経の働きです。
交感神経の働きが盛んなら活動的にはなれるものの、身体を休めようというときに交感神経の働きが盛んになっていると、なかなか休まらず、眠ろうとしても眠れなくなるということになります。こういうときには無理に眠ろうとして、羊の数を数えたり、本を読んだりしても、効果が得られないものです。根本的には副交感神経の働きを盛んにして、交感神経の働きすぎを抑えることです。
臭いと自律神経の話ですが、心地よいと感じる匂いでは基本的に副交感神経の働きが盛んになり、これがリラックス効果を生み出します。心地よい匂いの中には交感神経の働きを盛んにするものもあります。種類の異なる匂いを嗅ぐだけで自律神経の切り替えができるわけで、それを活用したのがアロマテラピーです。
心地よくない臭いのほうは、副交感神経の働きを盛んにすることはなく、交感神経の働きが盛んになるばかりです。副交感神経は心身をリラックスさせて眠りにつかせ、眠りを深くする作用があるのに対して、交感神経は目覚めさせる神経、身体を活性化させる神経であるので寝つきにくくなり、眠れたとしても眠りが浅くなって、睡眠時間の割には疲れが取れない、疲労の蓄積によって心身の活動に悪影響が起こる、注意力が低下して事故さえ起こしかねないという状況につながっていきます。
臭いには過敏な人と、あまり感じない人もいて、過敏な人は不快な臭いを感じると交感神経の働きが特に盛んになりやすく、臭いが気になると、さらに神経過敏になって交感神経の働きが高まる一方となります。この状態では安定した眠りを得ることは難しくなることから、臭いは眠りにマイナスになり、匂いはプラスになるというのが、雑誌記者にした話の中身です。