寿司の“貫”の正しいカウント方式

寿司の1貫は1個なのか2個なのかということについて先に説明したのですが、貫という言葉の語源には諸説があって、昭和初期の資料を見ると「1貫は料理人の符牒(隠語)で1個のことを指す」と書かれているものがあります。これに従うと「1貫は2個」ということになります。言葉の定義づけに使われることが多いNHK放送文化研究所のデータで見てみると、「1貫=1個」を支持するのは53%で、「1貫=2個」を支持するのは47%と、ほぼ同じという状況となっています。年齢別にみると年齢が高いほど「1貫=1個」が多くなります。地域別では、東日本は「1貫=1個」が多く、西日本では「1貫=2個」が多くなっています。
なんだか“一貫していない”ことになるのですが、江戸時代初期の寿司は大きくて1個が40gほどありました。これを華屋与兵衛が食べやすいように半分に切って出したことから2個を元は一つという意味から1貫という言葉が登場したということです。現在の寿司は店によって違いはあるものの1個が20〜25gなので、2個で1貫ということに優先判定をあげる人がいます。この華屋与兵衛は、現在の和食ファミリーレストランの華屋与兵衛ではなくて、江戸時代後期に深川で開業していた与兵衛寿司の握り寿司職人のことです。
この伝に従うと、発祥地の江戸の伝統で東日本で「1貫=2個」となり、西日本で「1貫=1個」となっていてもよいはずですが、現状では逆となっています。このことが気になってから、出張のたびに各地で寿司屋を訪ねて、この検証を試みているのですが、地域差というよりも店によって違っている、店による違いというよりも職人によって違っていることがわかりました。メディアにも登場する有名店で、この話をしたときに目の前で対応してくれた職人は関東出身なのに「1貫=1個」と言っていたのですが、この会話に割り込んできた職人は関西出身だったのですが「1貫=2個」と言い出して、一つの店でも結論が出ないことに、単なる客が結論を出そうというのは恐れ多いことではないかと感じたりしたものです。