専門以外は口にしないほうがよい、という話

専門分野のことになると詳しすぎるくらいに深いところまで知っている専門家が、一歩でも専門から離れると、とんでもないことを口にするというのは、よくある話です。専門ではない、よくわからないと言ってもよいはずなのに、メディアから取材を受けたり、テレビ番組や聴衆を前にすると言えなくて、「えいや!」で話してしまう先生がいます。メディア関係者から「こんな発言があったのですが、本当ですか」という質問があるのは、その多くは「えいや!」で話してしまったことの確認のためです。
私たちの専門はメディカルダイエットですが、これを実践するためには食事、運動、休養、入浴、睡眠、喫煙、健康食品まで幅広い知識が必要で、しかも対象者によって異なってくるために、性別、年齢、環境などによる変化を知っておかないといけないので、生理学、医学、薬学、栄養学、食品学、東洋医学、科学、環境学、社会学、文学、そして場合によっては法学まで範囲は広がります。要は雑多な知識で、それを確保するために多方面と付き合っているので、情報源として便利な存在ということかもしれません。
納豆の健康効果について、よく知っている先生がメディアにコメントをして、その裏付けを聞かれたことがあります。知っている先生だけに、できれば恥をかかせないように返答したかったのですが、専門外にはみ出しすぎて、フォローは大変でした。納豆の食べ合わせの話で、ゴマ(胡麻)をプラスするのは腎臓によいという話をされたとのことでしたが、高齢者や腎機能が低下している人の場合には、たんぱく質の摂取が制限されることもあるので、納豆を多く食べればよいというわけではない人もいます。それを先生も承知していて、だから食べ合わせに腎機能を高めるゴマを加えるとよいという話をされたようです。
なぜ腎臓にゴマがよいのかと聞かれても、ゴマのセサミンには特に腎臓によいというデータはありません。セサミンの抗酸化作用がよいのではないか、とメディアの方から聞かれました。抗酸化は、健康機能については全体的によいとされるので、簡単な結論になりそうですが、セサミンはゴマに含まれていても、普通に食べてもゴマの中から出てきません。出てこないものは吸収することはできません。そこで先生は、どんなゴマが特によいと言っていたのかを聞いたところ、黒ゴマと話していたということ。これなら東洋医学で返答できる範囲です。
東洋医学では腎(西洋医学の腎臓に相当)には五行でいう黒い食べ物がよいという話は広まっています。五臓は肝、心、脾、肺、腎で、それぞれ色が振り分けられていて、肝は青、心は赤、脾は黄、肺は白、腎は黒となっています。腎が悪くなると皮膚が黒くなりますが、これを治すのが黒い食品というのが東洋医学の考えです。となると黒ゴマだけでなく、きくらげ、海苔、ひじきでもよくて、そもそも黒豆で作った納豆でもよいことになります。
こんな後始末のようなメディア対応も、私たちの役目の一つとなっています。