専門外のことは慎重に話してほしいのに…

よく知っていることと、知ってはいるものの詳しくとは言えないこと、文章で表現するときに、どちらを確定的に表現するのかというと、ほとんどの人は“よく知っていること”と考えるかと思います。ところが、研究者や専門家の中には、よく知っていることをぼかした感じで言い、よくは知らないことを断定的に言う人がいます。「います」どころか、著明な先生、それも健康に関わる重要なことをメディアに登場して発言している方も目立っています。どうして、そんなことになるのかというと、専門分野のことは他に専門家にも注目されていることで“周囲の目”が気になるからです。
そもそも定説とされることは現状での見解であって、研究が進むと変更や逆転されることもあるので、記録に残ることだと言い切ってしまうのに躊躇があります。その場限りのセミナーでは喋ってお終いということもあるのでしょうが、話したことの責任が後からついてくるようなことだと言い放って知らぬふりとはいかないものです。
それくらい慎重な態度なら、よく知らないことだと、もっと慎重になってもよいはずです。ところが、知らないことに限って「えいやっ!」と勢いで話してしまう専門家もいるのです。医学者や研究者となると、それなりの理屈を言うので、いかにも本当の話らしく聞こえてもくるのですが、よくよく考えると妙なことを言っているという例も少なくありません。専門外のことでも個人的にやたらと勉強して詳しいという人もいるにはいます。関わりのある話なら、専門外でも知っていてもおかしくないということはあります。
ある運動生理学の先生が著書の中で筋肉の説明をしていて、「筋肉を増やすために栄養も大切」として長々と栄養学の基礎を述べて、この成分は、この食品に多く含まれていると、いかにも掲げられた食品を食べれば、どんな料理法、どんな食べ方でもよいというような書き方をしていました。しかし、栄養素によっては吸収率が低いものもあり、加熱によって破壊されるものもあります。食品に含まれているのに通常の食事のタイミングで摂ったら吸収されにくいものもあります。栄養学は食品学ではなく、調理科学も生理学も必要で、運動科学との組み合わせによっても栄養の代謝は変わってきます。そこのところを吹っ飛ばして、これを食べれば大丈夫というのは「えいやっ!」で書いたと言われても仕方がないことです。