文化性のない食事は“エサ”なのか

食事は「食文化」という言葉が使われるように、文化性が求められます。生命維持や活動に必要な栄養成分を摂るだけなら基本的なエネルギー源(糖質、脂質、たんぱく質)にビタミン、ミネラルなどのサプリメントを加えることでも可能でしょうが、食事には栄養摂取、食品の機能性獲得に加えて、おいしさも重要です。おいしければよいということではなくて、味のほかに見た目、香り、食感、喉越し、胃の満足度なども重要なポイントとなります。食べ終えて、総合的に「おいしかった」と感じられる食事であって初めて文化性が問われることになります。
こういう話をセミナーなどでするのは、栄養摂取だけに目が奪われる人がいるからです。胃の中に送り込む食品に含まれている栄養素が、そのまま吸収されるわけではなくて、栄養素によって基本的な吸収率が異なっています。例えば、カルシウムは食品からでは30%ほど、鉄の場合は動物性食品に含まれるヘム鉄では25%ほどに対して植物性食品に含まれる非ヘム鉄は5%ほどでしかありません。こういったことも考慮して、1日の栄養摂取量が定められています。
では、吸収率も考慮して栄養素の量を決定すれば、そのとおりに吸収されるのかというと、そう簡単にはいかないのが身体の仕組みの難しいところです。ある大学病院の栄養部が、栄養的にはまったく同じ料理の色だけを変えて提供して、食べた方の血液検査をして、それくらい吸収されたのかを調べたことがあります。色の変化は食物性の色素で、詳細は省きますが、一番吸収率が低かったのは青色にしたものでした。
青色は食欲が湧かない色とされていて、自然の食品の中で青いものは、あまり見かけません。食欲が湧かないと胃液の分泌がよくないので吸収率が低くなると説明されることもありますが、胃液の分泌量を考慮しても、それを超える違いが起こっていました。精神的なものが、せっかく食品に含まれている栄養素を吸収させないことが起こっていたわけで、おいしく食べてもらえる工夫は病院給食だけでなく、家庭の毎日の料理でも同じことが言えるわけです。