日本人はインスリンが不足しやすい

前回のインスリンの話の最後のほうに、「糖尿病患者にはブドウ糖や脂肪の取りすぎを抑えるための食事制限」ということを書いたら、こちらが予想していたとおりの質問がテレビ局のディレクターからありました。糖尿病に影響するのはブドウ糖であって、脂肪は間違いではないのか、という質問内容です。そう考えるのも普通に考えれば当然かもしれませんが、膵臓から分泌されるインスリンにはブドウ糖を細胞に取り込む働きのほかに、肝臓でブドウ糖などから脂肪酸を合成する働き、脂肪酸から変化した中性脂肪を脂肪細胞の中に取り込む働きもあります。甘いものを食べすぎると脂肪に変わる、といわれるのは、この仕組みです。
脂肪が多い食事をしていると、インスリンが多く分泌されます。欧米人は肉食の歴史が長いことからインスリンの分泌量が多く、膵臓も丈夫にできています。そのためにインスリンを多く分泌させて、脂肪の細胞の中に充分すぎるくらいの脂肪を蓄積することができます。日本人の場合には歴史的に脂肪の摂取量が少なく、インスリンも多くは必要としない生活をしてきたので膵臓の働きがあまりよくなくても生きてこられたのですが、急に食生活が変化してブドウ糖も脂肪も多く摂るようになって膵臓に負担がかかり、そのために膵臓が疲弊してインスリンの分泌が少なくなって、糖尿病が増えたのです。日本人の場合には糖の摂りすぎではなくて、脂肪の摂りすぎが糖尿病の原因ではないのか、と言われるのは、こういった理由があるからです。
ということで、糖尿病を予防する場合も糖尿病を悪化させないようにするためにも糖と同時に脂肪の制限も必要になるわけです。一般には全体の摂取エネルギー量を制限すること、と言われるわけで、「血糖値が上昇するのはブドウ糖のせいなのでブドウ糖だけを減らせばよい、脂肪は摂っても大丈夫」という極端な糖質制限には疑問を呈しています。