案外と知られていない腸の役割と機能

腸の形や大きさはイメージしやすくても、機能については“栄養の吸収”ということはわかっていても、具体的なことはイメージできていないという人は少なくありません。腸の機能を理解するために、腸を植物の根にたとえて説明することにします。
植物は土から栄養成分と水分を吸収して成長していますが、その役割は根が担っています。根から吸い上げられた栄養成分と水分は茎を通って全体に運ばれ、花や実をつけるまで栄養成分が送られ続けています。植物の種類によっては異なった成長の仕方をするものもあるのですが、人間の腸壁は主に根の働きをしています。
根が栄養成分を充分に吸収するためには、土の中に窒素や燐酸などの他に、ミネラルも豊富にあることが必要となり、そのために肥料が与えられます。身体で土に該当するのは腸の中にある食べ物が分解された食塊になりますが、充分に胃で消化されていれば充分に吸収されるというわけではありません。土と根の関係でいうと、根はミネラルがイオン化されていないと吸収することができません。イオン化させるのは土の中に棲息している微生物です。腸の中にも、微生物の腸内細菌がいて、そのうちの善玉菌が発酵を進めて吸収されやすい形にしています。吸収率は腸内細菌のバランスにかかっているわけです。
過去には土の中には微生物が多く棲みついていたことから、化学肥料を多く使うと、それに比例するように植物を早く、大きく成長させ、栄養も豊富に蓄えさせることができました。ところが、化学肥料を使いすぎた農業を長らく進めてきたことから土の中の微生物が減り、ミネラルを充分にイオン化させることができなくなったことから、根から吸い上げられるミネラルが不足して、植物の中のミネラルが減る結果となっています。
腸の中で発酵を進める善玉菌は、腐敗を進める悪玉菌とのバランスによって働きを変化させています。腸内細菌はほぼ総数が決まっていて、善玉菌が増えると悪玉菌が減り、逆に悪玉菌が増えると善玉菌が減っていくようになっています。善玉菌が減ると腸内の発酵が進みにくくなり、腸壁から根のように吸い上げる栄養成分の量も減っていくことになります。
腸壁から吸い上げられて血液中に取り込まれる栄養素のうち太る原因とされる脂肪(中性脂肪)の量が、善玉菌が減ったために少なくなるのならダイエットや生活習慣病予防にはプラスとなるかもしれません。しかし、脂肪は胃と小腸の間にある十二指腸から分泌される胆汁酸によって分解されるので、小腸に移動したときには吸収されやすい形となっています。そのため、腸内細菌のバランスが、どちらが多い状態であっても吸収には変わりがないという結果になっているのです。