梅干しを食べると糖尿病が予防できるのか

糖尿病患者は約1000万人、その予備群も約1000万人と、厚生労働省の国民健康・栄養調査の結果として発表されています(平成28年調査)。調査対象は成人人口の約1億人なので、10人に1人が糖尿病患者、合計で5人に1人が高血糖状態にあるという推計がされているので、完全に国民病となっています。ということで、メディアからの問い合わせも糖尿病に関することが多く、このコーナーでも糖尿病に関するコメントが増えています。糖尿病の予防と改善には、食事療法が第一で、これで血糖値が安定しない場合には運動療法が実施され、この二つが実施されても充分な結果が得られないときに初めて医薬品が使われるのが原則です。
実際には原則どおりではなく、初めから医薬品を使う医師も少なくないのですが、それだけ食事療法も運動療法も実施しにくく、実施したとしても継続できない人が多いことがわかっているからで、患者で積極的に両方の療法に取り組みたいという人が少ないことも事実だからです。そんなこともあって、できるだけ簡単な方法で血糖値を下げたいと願う人は多く、そこを狙ったテレビ番組も増えています。
梅干しを食べるだけで血糖値が下げられるという番組は特に視聴率が高かったのですが、その理由として使われていたのは動物試験の結果で、高血糖ラットの餌に梅干しを加えたところ血糖値が下がったというものです。その仕組みは判明していて、人間でも下がるという主張をしていました。仕組みの解明は正しいとしても、それなら人間を対象としたヒト試験を実施してほしいところです。なんといっても国民の5人に1人は高血糖状態で、対象者探しに苦労はしないはずなので。
梅干しにはアディポネクチンを増やす作用があります。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される生理活性物質で、脂肪細胞の中に脂肪が多く蓄積されると分泌量が増えていきます。アディポネクチンが不足すると膵臓からインスリンが分泌されていても、細胞にインスリンを使ってブドウ糖を取り込む働きが低下します。これはインスリン抵抗性と呼ばれていますが、減ったアディポネクチンが戻っていくとインスリン抵抗性も改善されていくことが知られています。この結果をもって、アディポネクチンが増えれば血糖値が下がるのかということになると、確定的なことは判明していません。
マイナスをカバーする働きがあると、プラスに作用する働きを期待してしまうところですが、これについては、これからの研究待ちです。それまでは梅干しの血糖降下作用を信じて、せっせと食べてほしいという番組の内容でしたが、梅干しにはクエン酸という代謝促進のための成分が含まれている一方で、塩分による血圧上昇や血管への負担も指摘されています。塩分の過剰にならないような量を食べることまで止める気はありませんが、多く食べれば、その分だけ血糖値が下がるというような考えは否定させてもらっています。