様と風はどう読むのか

「様」といえば名前を後につける敬称で、手紙やメールにしか使わないという人も少なくありません。講演で講師を務めたときに「先生」と呼ばれるのではなく、「様」をつけて呼ばれたときには慌てましたが、その様が「様に」というようにテレビのテロップで使われ、頻繁に目にするようになりました。本当は「ように」と表示したいところなのでしょうが、テロップは短くて文字数に限りがあるので、漢字を使っているわけです。
同じような使い方がされているのは「風」です。風といえば空気の流れのことかと思ったら、「という風に」というように書いて「ふうに」と読ませています。パソコンの文字変換を使えば簡単に出てくるものの、「テロップは聴きながら読むのだから、読み間違いはしないのでは」と、そのテロップを作っているディレクターから言われました。確かに文字だけを出されているわけではないので、その言い分もわからないではありません。しかし、テロップが出ているときに、流れている言葉は耳には入ってくるものの、その意味までは充分に伝わってこないというのは、よくあることです。
言葉では「すごい」と言っていても、テロップに「すごく」と出ていると、印象に残るのは「すごく」のほうです。以前に、番組の監修をしたときに話している内容が違っていましたが、放送まで時間がないというのでテロップを書き換えて通すようにしたことがあります。その番組を当方の知人で見てくれたうち、話した言葉とテロップが違っていたことに気がついたのは、たった1人、わずか1%でした。
最近、テロップで増えてきたのが「沢山」です。これは「たくさん」を漢字にしたものですが、普段は使う漢字ではないので、沢山と書かれていたら疑問が先に立って、その後のことは頭に入ってこないということもあります。我々は疑問が、というよりも、どうしてこの使い方をしたのかということが気になって、頭に入ってこない感じです。
以前、番組の台本の読み合わせをしているときに、「たくさんあおい」と読む人がいて、何だろうと思って台本を見たら「沢山葵」と書かれていました。「さわわさび」の読み間違いです。これも「沢山」を「たくさん」と読ませていることの弊害の一つかと思います。
この他に、「様々」、「色々」、「十分」というのも気になります。このコーナーでは数字を扱うことが多いことから「十分」と書いたら「じゅうぶん」というよりも「じゅっぷん」と読まれかねないので、わざわざ「充分」と書き分けています。正しい漢字使いからしたら「じゅうぶん」は「十分」と書くのが相応しいのですが、意味の間違いを防ぐのが重要なことであるので、当然のことと考えます。
テロップでは漢字変換は仕方がないとしても、これを読み間違えしないように記事として読まれるための原稿を書くときには、わざと漢字とひらがなを混ぜることがあります。これはありだとしても、「人ごと」という表記は問題です。「ひとごと」とは「他人事」の読み仮名で、これを「たにんごと」と読まないように振り仮名をつけることはあっても、漢字とひらがなを混ぜて「人ごと」ということはあり得ません。むしろテロップに表記するなら「ひと事」になりそうですが、「他人」を「ひと」と読む機会が少なくなってきたせいなのか、「人ごと」というテロップは頻繁に登場しています。