“洋食”は“和食”か

日本人の健康度は食事の洋風化が進むに連れて高まり、平均寿命が延びたものの洋風化が進みすぎた結果、平均寿命が延び続けている一方で、健康寿命との差が広がっているという“不幸な長生き”を生み出しています。食事の洋風化というのは、伝統的に食べてきた和食から肉類が増え、脂肪が増えて、これが生活習慣病を増やす原因となっていると指摘されています。
洋風化であって、洋食だけを食べている海外で暮らすのと比べると、まだ健康的な食品とされる魚、野菜、豆、海藻などを多めに食べているので、両方の食事のメリットを取り入れることができるのが洋風化した食事ということになるはずです。
今では家庭で洋食が普通に食べられるようになっていますが、平均寿命が延びても生活習慣病は多くなかった昭和30年後半から昭和40年代前半は、家庭で食べる洋食といえばカレーライスが代表的なもので、他にコロッケ、オムレツ、チキンライスくらいで、少し遅れてハンバーグという感じでした。それも毎日のように食べられるものではなく、特別な日、今で言うと“ご褒美の外食”くらいの扱いでした。
その外食である洋食は、フランス料理が代表中の代表と思われがちですが、当時に洋食として出されていたものはカレーライス(店によってはライスカレー)の他にはカツレツが多く、ステーキ(ビフテキ)、エビフライは“高値の華”でした。カツレツはフランス語のコートレットに英語のカットレットが合わさって命名されたと伝えられます。コートレットは牛肉にバターをつけて衣をつけてオーブンで焼いた料理です。カツレツといえば牛肉だったので、今のような豚肉を使ったものはポークカツレツと呼んで、ビーフカツレツと区別していました。
そこから洋食の調理法として広まっていったパン粉を使った揚げ物としてカツレツが登場して、今でいうトンカツの形となっていきました。この他に、シチューがカレーライスと同様の掛け物としてハヤシライスが生まれ、揚げ物とカレーライスという組み合わせのカツカレーが生まれるなどアレンジが進んでいきます。また、オムレツとチキンライスが一緒になったオムライスも登場します。
日本人の料理人が日本人の感覚に合わせてフランス料理をアレンジして作り出したのが洋食ということですが、日本で誕生して日本に定着したということでは、もはや和食と呼べるものとなりました。西洋の食事は料理を食べながらパンを食べるという形が基本ですが、日本の洋食はご飯が一緒に出される、ご飯の上に乗せているという日本の丼物と同じ発想の食べ方となっています。
日本人のアレンジ好きは世界的にも有名で、アレンジ料理は日本の料理として世界に広まっています。酢豚にパイナップルを入れたのも日本人です。エビチリ、回鍋肉は日本の四川料理の名店で、エビマヨは中華の鉄人の横浜の店で誕生しました。天津飯、中華丼、ちゃんぽん、皿うどん、冷やし中華も日本生まれです。今のラーメンは、各店のオリジナルの更新に更新を重ねたもので、拉麺という中国料理がスタートであっても、まったく異なる料理となっています。これも和食といえます。
そもそも中華料理という名称は日本で生まれた中国の料理のアレンジ版で、本場の料理は中国料理です。しかし、日本で食べられる中国料理は、今では日本人の味覚に合う料理となっています。それを食べた中国からのツーリストから中国料理よりもおいしいと言われるまでになっています。中国料理の名店といっても、それが集まっている横浜中華街、神戸南京町、長崎新地中華街は自ら中華街と名乗っているように「中華」、つまり日本版中国料理というわけです。