猪の肉は健康づくりに役立つのか

日本人は仏教の影響もあって歴史的には肉食をしてこなかったのですが、沖縄県では肉食をしてきたことから、これが一時期の長寿日本一の支えとなっていると言われていました。しかし、沖縄県の平均寿命は男性が36位、女性が7位となっています。これは5年ごとに発表される都道府県別平均寿命の2015年データによるものです。肉食が増えることは栄養不足の時代にはよい結果となったものの、栄養過多の時代には悪い結果にもつながります。沖縄県で伝統的に食べられていたのは豚肉で、終戦後に増えたのは牛肉です。これはアメリカの影響によるものです。
豚肉と牛肉が同じような内容であったら悪影響は出にくかったのかもしれませんが、肉類に多く含まれて、摂りすぎが動脈硬化のリスクを高めることが指摘される飽和脂肪酸は牛肉に多く、リスクを抑えてくれる不飽和脂肪酸は豚肉に多くなっています。この話を健康誌の編集者に話したときに、以前から伝えていた猪(いのしし)肉は、どうなのかという質問を受けました。猪肉は豚肉よりも健康づくりに役立つという説明をしていたからです。
豚肉は全体的に飽和脂肪酸の量は少なくても、飽和脂肪酸のステアリン酸は多くなっています。ステアリン酸は肝臓のLDLレセプター活性を抑制する作用があります。LDLレセプター活性というのは肝臓で悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLを合成する働きで、これら抑制されるということは血液中のLDLが減るということです。また、ステアリン酸には善玉コレステロールと呼ばれるHDLを増やす作用もあります。さらに豚肉に含まれる不飽和脂肪酸のリノール酸にはLDLを低下させる作用もあって、牛肉に比べると全体的により肉ということになります。
猪は豚の祖先だけあって、猪肉には豚肉のメリットがあるうえに、飽和脂肪酸が全体的に少なく、エネルギー量も低いという特徴があります。そして、代謝に必要なビタミンB群の量も多くなっています。全身の細胞のミトコンドリアの中でエネルギー代謝を行うためにはビタミンB₁、ビタミンB₂、ビタミンB₆、ビタミンB₁₂がすべて揃っている必要があります。ビタミンB₁だけは豚肉のほうが多いのですが、ビタミンB₂、ビタミンB₆、ビタミンB₁₂は猪肉が最も多くなっています。