“猫にこんばんは”の話

「猫に小判」をもじった「下戸にご飯」の話を紹介したところ、この手の話が好きな雑誌編集者から「猫になんとかという面白いネタがありましたね」とのメールが届きました。私たちがよく使うフレーズでは「猫の手は借りたくない」というのもありますが、今回の話は「猫にこんばんは」です。猫に挨拶をしても意味が通じない、つまり話しても内容が伝わらない人のことを言うのに使っています。なぜ、このようなことを聞いてきたのかと問うたところ、私たちが意味する「通じない」ことを言う他のフレーズはないか調べているとのことでした。
もじりの言葉は、これから考えるとして、「馬の耳に念仏」「蛙の面に水(小便)」などの諺が使われています。雑誌の企画としては、“正しいことを伝えようと一生懸命になっても、理解できない人には無駄なこと”というのを打ち出したいということでしたが、伝わらないのは受け手が問題というよりも送り手の問題もあります。日本語の意味を充分に理解できないとか、年齢を重ねていくことで理解力が低下したとか、病気か何かで理解する機能が低下したということはあります。しかし、“よほどの相手”でなければ伝え方さえしっかりしていれば伝わらないようなことはありません。“よほどの相手”を伝える対象として選んだほうに問題があると考えるのが一般的かもしれません。
日本メディカルダイエット支援機構のモットーは「無理なく無駄なく」です。話しても無駄と考えるのではなく、無駄なく伝えるための内容と方法を考えて、場合によっては伝える内容を弱めるなどアレンジを加えるべきです。話し方や話す態度でも伝わり方は随分と違ってきます。自分たちの主張を曲げずに、理解できない人は来なくていい、実践してもらわなくていいということでは、広まるべきことも広まってくれません。「猫にこんばんは」と言って通じないとしても、どんな言葉の言い方をして関心を抱かせ、猫に話しかけたことの目的が達せられればよいと考えます。
これは霞が関のお役人と話していたときに出たことですが、カルシウムでダイエットできることを広められないかと言われたことがあります。カルシウムでやせるとしたら腸の収縮が盛んになって便通がよくなることが普通に考えられますが、カルシウムが不足すると太るというメカニズムは明らかにされています。食事で摂るカルシウムが大きく減ると骨の蓄積されたカルシウムを破壊して血液中に放出するために副甲状腺ホルモンが多く分泌されます。これによって一時的に血液中のカルシウムが多くなると、余分なカルシウムは脂肪細胞にも入り込みます。脂肪細胞にカルシウムが多く入るのは正常な状態ではないので、これを追い出すために脂肪を多く作り出す脂肪酸合成ホルモンが多く分泌され、体内の脂肪量が増えていきます。カルシウムを多く摂ることによって、これを防ぐことができるようになるわけです。
この説明は「猫にこんばんは」となりかねない内容ですが、なぜお役人がカルシウムダイエットまで持ち出そうとしたのかというと、カルシウムの摂取量が大きく低下していて、中でも40代の女性の摂取量が大きく下がっているからです。40代の女性は急に太り始める年齢でもあります。高齢社会の担い手が骨が弱い状態ではいけないので、カルシウムを摂ってもらうための方策を探していたということでした。
目的を達成することが大切で、そのための手段でしかないのに、手段ばかりに目が行ってしまい、目的のほうが進まない、目的を変えるようなことがあってはならないことです。そういった戒めとしたいときに「猫にこんばんは」を使うようにしています。