発達障害の改善に早歩きは効果があるのか

有酸素運動は大脳の前頭前野の血流を促進することが知られていますが、前頭前野は記憶や集中力に関わる部位であるので、ウォーキングなどの効果的な有酸素運動は高齢者の認知機能を向上させるために採用されています。その事実から、ウォーキングは発達障害の改善にも効果があると考えられています。有酸素運動の脳への作用は認めるところですが、そのまま発達障害の改善につながるという考えには疑問があります。
運動によって脳細胞にまで効果的に運ばれるようになるのは、脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖と、それをエネルギー化させるときに必要な酸素です。ブドウ糖が細胞膜に取り込まれるためには、血糖値(血液中のブドウ糖の量)が上昇して、膵臓からインスリンが分泌される必要があります。細胞の中にブドウ糖を取り込む働きをしているGLUT4というグルコース輸送体がありますが、普段は細胞の奥の方にあります。インスリンが分泌されるとGLUT4が細胞膜に近づいて、ブドウ糖を取り込むことができるようになります。
インスリンの分泌が低下しているとき、血液中のブドウ糖が少ないときには細胞にブドウ糖が取り込まれないのかというと、そのようなことになったら細胞内でエネルギーが作られなくなってしまいます。そこでインスリンなしでもブドウ糖を取り込むことができる仕組みがあります。その仕組みを動かしているのはAMPキナーゼという酵素です。AMPキナーゼは強めの負荷がかかる運動によって活性化するもので、高負荷であれば短時間の運動でも活性化します。
これに該当する簡単な運動は頑張って歩く早歩きで、2本のポールを使って歩くノルディックウォーキングは上半身も大きく使うことから歩くだけなのにAMPキナーゼを活性化させることができます。早歩きを10分くらい続けるのがよいのですが、そこまで続けられないという場合には、1分だけ超早歩きをして、次に2〜3分の普通歩き、また超早歩きということを繰り返すと、負荷を高めたまま長めに歩き続けることができます。
早歩きは酸素を多く取り込み、血流に乗って多くの酸素を脳細胞まで送り届けてくれます。ということで、多くのブドウ糖を取り込み、脳細胞の中のミトコンドリアで多くの酸素を使って、多くのエネルギーを作り出すことができるようになるので、脳の機能を高めることになるということです。