発達障害は不快を感じる嗅覚が敏感

人間の五感の視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のうち、80%ほどは視覚からの情報となっています。視覚が奪われると聴覚、嗅覚が敏感に反応するようになります。味覚も触覚も心地よい体験があった場合には、それが記憶として残されていて、過去によくない記憶があると心地よくないどころか、不快に感じることもあります。
ところが、嗅覚だけは過去の記憶の有無には関係がなく、心地よい“匂い”は誰にとっても心地よくて、不快な“臭い”は誰にとっても不快でしかありません。これは脳の機能と関係しています。
視覚、聴覚、味覚、触覚は脳の中で人間の理性的な感覚を司っている新皮質で、過去の記憶と照らし合わせて、快感なのか不快感なのかの判断をしています。それに対して嗅覚だけは快感を与える“匂い”には心地よい反応が起こり、不快感を感じる“臭い”は誰もが避けたくなり、逃げ出したいような感情が起こります。そう感じたときには正常な状態ではいられなくなるのですが、発達障害の自閉症スペクトラム障害の感覚過敏では、嗅覚が敏感に反応しすぎて、通常よりも強い不快感を感じてしまいます。
嗅覚過敏では、匂い・臭いの嗅ぎ分けが苦手で、鼻から入ってきた匂い物質がすべて嗅覚神経を刺激して、その情報が脳までストレートに届けられてしまいます。嗅覚を刺激する不快と感じる臭いは、発達障害児にとっては精神的に強い苦痛でしかありません。これは人間の理性を司る新皮質ではなく、動物的な旧皮質でもなくて、“爬虫類の脳”と呼ばれる生命維持のための中枢部分の働きに関係しています。臭いは生命の危機を感じさせる刺激となっているのです。
強い刺激の臭いであっても、嗅ぎ慣れているうちに感覚が鈍ってきて、強く感じなくなることもあります。ところが、発達障害児は慣れることが少なく、ずっと悩まされ続けているということを知っておいてほしいのです。