発達障害者はIT業界の重要な人材になる

発達障害がある人は、就職する段階でも就職した後でも、その能力が充分に発揮できないというプレッシャーを受け続けています。発達障害は脳の発達に凹凸があることから、バランスのとれた社会活動がしにくいことが指摘されています。発達障害は自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害、学習障害に大きく分けられますが、そのうち自閉症スペクトラム障害と注意欠陥・多動性障害の特性を活かすことで、他の人にはない能力が引き出されるとされるものの、生産労働の人材として活用しないことが大きな経済損失につながるような証拠となるデータは、これまで明らかにはされてきませんでした。
この課題に取り組んだのが民間シンクタンクの野村総合研究所で、自閉症スペクトラム障害と注意欠陥・多動性障害を人材として活用できていないことによる経済損失が年間2兆3000億円になるとの推計を発表しました。
少子・高齢化が急速に進む我が国では、今後40年間で生産労働人口が約35%も減少すると推計されています。2020年の生産労働人口は7406万人ですが、これが2060年には4793万人にも減少するとみられています。成長市場であるIT業界では10年後の2030年でさえ、需要数約192万人に対して供給数は約133万人と、約79万人不足するとの試算もあります。
産業人材の確保のためには、現段階では充分に働けていない人材の活躍機会を生み出すことが重要で、その人材として発達障害の人が着目されています。野村総合研究所の約10万人を対象とした調査結果によると、自閉症スペクトラム障害と注意欠陥・多動性障害の診断を受けた18〜65歳の生産労働人口は約140万人いると推計されています。
アメリカでは自閉症スペクトラム障害のある人を活用しないことによる年間経済損失は円換算で19兆〜21兆円、注意欠陥・多動性障害では11兆〜21兆円と推計されています。海外の大手企業では発達障害人材の職務適性に着目して、IT、金融、製造などの分野で高度IT専門職として採用・育成を積極的に進めています。
日本の1年間の経済損失は自閉症スペクトラム障害で1兆3000億円、注意欠陥・多動性障害で1兆円とされていて、少子・高齢化による生産労働人口が少ないことを考慮してもまだまだ少ない数値でしかありません。世界に先行して少子・高齢化が進む日本こそ、発達障害をポテンシャルのある多様な人材として切り開いていくことが強く求められているのです。