筋肉を使って歩くほど認知機能は高まる

運動をすると骨格筋が収縮することによってミオカインというホルモンとして働くタンパク質が分泌されます。ミオカインは300種類を超えるといわれていますが、その中で特に注目されているのはインターロイキン6という種類です。免疫細胞の中で作られるホルモンとして知られていましたが、運動をしたときに血液中の濃度が高くなることがわかり、筋肉から分泌されていることが確認されました。骨格筋の収縮によって分泌されるということで、筋肉が大きく動く運動によって免疫が高まることが期待されましたが、実際に確認をしたところ、ウォーキングによって分泌量が増えることがわかりました。筋肉が大きく動くことよりも適度な負荷がかかり続け、それが長く続くことが大切だということです。
このミオカインの中で次に注目されたのはイリシンで、認知機能の維持と向上に役立つという成果です。イリシンは細胞膜に結合しているタンパク質(FNDC5)の一部が分離したものです。脳で記憶に深く関わる海馬ではBDNFの分泌がイリシンによって促進されます。BDNFは神経細胞の成長を調整するタンパク質で、脳由来神経栄養因子と呼ばれています。
このイリシンの認知機能への影響について、早期アルツハイマー型認知症患者と後期アルツハイマー型認知症患者の海馬に含まれたイリシンの量を比較した試験がありますが、その結果、後期アルツハイマー型認知症患者のほうが少ないことがわかっています。その理由を知るために、これは動物試験ですが、認知症で増加することが確認されているアミロイドβがイリシンに与える影響をマウスの海馬で調べたところ、アミロイドβを海馬に与えるとイリシンの量が減ることがわかりました。
筋肉から分泌されたイリシンは血液によって脳まで運ばれ、記憶に影響するということですが、下半身(ヘソから下)には全身の筋肉の約70%があり、歩くことで頻繁に動きます。特に歩幅を広げて勢いよく歩くと筋肉の収縮は大きくなるので、認知機能の向上のためには元気なウォーキングが向いているということになります。