糖尿病は認知症になりやすいのか

糖尿病の診断基準であるヘモグロビン(Hb)A1cが高いと認知症のリスクが高まるという内容のテレビ番組のあとに、別局のディレクターから「糖尿病だと認知症になるのですか」という質問がありました。番組では認知症になりやすいという話はあったものの、認知症になると断定はしていなかったのですが、断定していると認識する人がいても仕方がないと思えるような取り上げ方をしていました。
HbA1cは長期間にわたって血糖値が高くなっていたことを示す検査基準です。血糖値が高いということは糖質の摂りすぎよりも、血液中のブドウ糖を細胞が充分に取り込めていない結果です。全身のエネルギー源うち20%ほどは脳で使われています。少なくとも1日に100gのブドウ糖が脳には必要とされています。脳以外の細胞はブドウ糖も脂肪酸もアミノ酸もエネルギー源とすることができるのですが、脳細胞はブドウ糖しか取り込めません。血糖値が高い状態ということは、脳細胞にブドウ糖が取り込まれていないので、脳細胞の中で作られるエネルギーも少なくなり、エネルギーが不足することから脳を正常に働かせることができなくなるわけです。
ブドウ糖を細胞に取り込むためには、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンが必要になります。糖尿病はインスリンの分泌量が少ないか、インスリンは分泌されていても細胞で使う能力が低下しているために細胞にブドウ糖が充分に取り込まれないことが原因となっています。番組では、わかりやすいようにインスリンの分泌量が少ないことに絞って説明していました。
脳の中でも特にブドウ糖が多く使われ、インスリンも多く必要となっているのは記憶を司っている大脳辺縁系の海馬です。認知症や、認知症の予備群である軽度認知障害の人は海馬のブドウ糖が少ないことが確認されています。また、インスリンの分泌量が少ないと認知機能が低下することも知られています。
糖尿病になると認知機能が低下するという番組を見て、知り合いの医師から「これで糖質制限の重要性が認められる」とのメールがありましたが、その考えには疑問もあります。というのは、脳細胞にブドウ糖が充分に取り込まれていないのに、極端な糖質制限をしてブドウ糖が不足するようなことになったら、ますます脳のブドウ糖不足、脳の飢餓状態になってしまうと考えているからです。