糖尿病患者に運動をしてもらうための方便

糖尿病の人は食事療法が基本で、これがしっかりとやれていないと運動療法の効果は出にくいとされています。それは正しいことですが、運動をしたくないと考えている人は「運動は効果がないので、食事で対応する」という発言をすることがあります。それほど運動をしたがらない人に、なんとか運動をしてもらいたいということで、いろいろなアプローチがされていますが、よく例として出されているのは有酸素運動による効果です。
食事で血糖値が下がりにくいときに有酸素運動をすると、細胞の中にあるグルコース輸送体のGLUT4が細胞膜の表面に近づいて、ブドウ糖を細胞内に効率的に取り込むことができるようになります。有酸素運動をすれば、無理に食事制限をしなくてもよいということで、歩く程度から運動を始めるようにという理屈としています。
もう一つは、血糖を分解する働きが高まることです。運動をすると筋肉から血糖を分解する作用があるAMPキナーゼが分泌されます。AMPキナーゼには脳の視床下部の摂食中枢に作用して、空腹感を感じにくくさせる作用もあります。運動をすると食欲が高まりにくくなるのは、自律神経の交感神経の働きが盛んになって胃液の分泌量が減ることもあげられていますが、これに加えてAMPキナーゼの働きもあったわけです。
有酸素運動をすると血栓を溶かす作用があるt‐PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)が増加します。運動が不足すると血栓ができやすくなり、有酸素運動をすると血栓が溶けるというわけです。糖尿病は血管の老化が進む疾患で、血管の老化によって弾力性が失われたところに血栓ができると詰まりやすくなり、これが脳梗塞の原因になります。脳梗塞までいかなくても、一時的に血管が詰まることによって言語や身体機能の障害が起こる一過性脳虚血発作のリスクも高まります。
運動をすることで、血糖値を安定させるだけでなく、糖尿病の合併症を引き起こす血管の老化・劣化を抑えることもできるということは、これまで多くの糖尿病の方に響いてきた説明です。