糖尿病患者は運動でブドウ糖が使えないのか

「細胞がブドウ糖を取り込めなくなるのが糖尿病だとすると、糖尿病患者は運動をするときに何を使っているのですか」という質問が雑誌編集者からありました。糖尿病はインスリンが不足するか、インスリンが分泌されていても細胞での働きがよくないためにブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなり、その取り込まれなかったブドウ糖が血液中で多くなりすぎることによって起こる疾患です。血液中で濃くなったブドウ糖は血管の細胞に染み込んで血管を老化させていきます。糖尿病が困難なのは、血管の老化によって全身の機能が徐々に低下していくことです。
細胞がブドウ糖を充分に取り込めない状態では、運動をして一時的に多くのエネルギー源が必要になってブドウ糖を取り込もうとしても、それができなくなってしまいます。そこで細胞にはインスリンの作用がなくてもブドウ糖を取り込めるようにする仕組みが備わっています。それはGLUT4というグルコース(ブドウ糖)輸送体で、筋肉細胞と脂肪細胞の中にあり、運動をするとGLUT4が細胞膜に近づいて、ブドウ糖を取り込めるようになっています。
“運動をすれば”というところが重要で、運動をして筋肉で使われるエネルギーを作るために、ブドウ糖が取り込まれ、その結果として血糖値が下がっていきます。糖尿病の治療には食事療法とともに運動療法が必要で、この二つがなければ治療薬も効果がでないと言われるのは、運動にはインスリンを分泌させたのと同じ効果があるからです。
インスリンが分泌されても、インスリンへの感受性が低く、細胞で充分に使われないためにブドウ糖を取り込めない人は多く、これはインスリン抵抗性と呼ばれています。日本人はインスリン抵抗性の体質の人が特に多く、内臓脂肪が増えると脂肪細胞から分泌される生理活性物質のアディポサイトカインによってインスリン抵抗性が高まり、血糖値が下がりにくくなるのです。
糖尿病患者であっても、インスリンなしで細胞にブドウ糖が取り込まれるようになるなら、運動をすることによって膵臓の負担を減らすことができるようになります。これによってインスリンの減少にストップをかけることができるので、膵臓を長持ちさせて、一生涯にわたってインスリンを使い続けることができるようになるということです。