脂肪は体内で燃焼しているのか

運動をすると「体内で脂肪が燃焼する」という表現がよくされます。私たちも代謝の仕組みを説明するときに、できるだけ簡単に、イメージしやすいように伝えようとして“燃焼”という言葉をつかうことがあります。しかし、実際には体内で燃焼するようなことはありません。
以前に“燃焼系”と名付けたアミノ酸飲料が盛んにPRされていました。脂肪は燃焼するものではないという常識があるものの、その常識を超えた研究成果があって、私たちが知らなかっただけなのかという思いもあって、メーカーの広報に問い合わせをしたことがあります。そんなときの返答が振るっていました。こんな言い方もあるのかと、ある意味、心を揺り動かされたことを覚えています。
「アミノ酸を摂ることで日常生活を完全燃焼で過ごしてほしいという思いがあって……」という曖昧模糊な答えでした。
アミノ酸はタンパク質を構成する成分で、20種類のうち9種類は体内では合成されないために食品から摂らなければならない必須アミノ酸となっています。そのうちバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類はBCAA(Branched Chain Amino Acids)といって、分子構造から分岐鎖アミノ酸とも呼ばれています。BCAAは必須アミノ酸のうち約50%を占めていて、筋肉の中でも約35%を占めています。
ということで、このBCAAは筋肉に蓄積されていますが、運動によって分解されやすいので、運動後には不足しがちになります。そこで運動後にBCAAを摂ることで、筋肉を強化して、エネルギー代謝量を高めていくことができるということです。
それなのに、ただ飲めば燃焼する、元気になるというイメージの宣伝をすると、運動をしなくても燃焼系の効果が得られると勘違いしかねません。どんなに効果があっても、アミノ酸はエネルギー源であるので、体内で使用されないと肝臓で脂肪に合成されることになります。そして、余分な脂肪として脂肪細胞の中に蓄積されます。アミノ酸のエネルギー量は1g当たり約4kcalと、糖質のエネルギー量とほぼ同じです。
アミノ酸飲料には糖分も含まれています。これは飲みやすくするためだけでなく、エネルギー化しやすいブドウ糖が含まれていることで、この作り出されたエネルギーが脂肪代謝のために使われます。だから、ブドウ糖は必要なのですが、飲むだけで身体を動かさないようなことがあると、もっと太る原因となってしまいます。