脂肪を燃やして脳のエネルギーが作れないか

「脂肪を燃やして脳のエネルギーが作れないか」と言ってきたのは雑誌編集者で、認知症予防の食品についての記事の参考にしたいということでした。身体のエネルギー源は糖質、脂質、たんぱく質で、それぞれブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸が細胞に取り込まれてエネルギーとなります。脳細胞はブドウ糖しか取り入れられません。脳は全身の2%ほどの重量しかないのに20%ものエネルギーを消費しています。そんなにも多くのエネルギーが使われるのだから、脂肪酸がエネルギーとして使われるならメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)で苦労している人も解決法があることになるのですが、少なくとも脂肪酸が脳細胞でエネルギーとなることはありません。
となれば、脳細胞以外で脂肪酸をエネルギー源として発生させたエネルギーを脳細胞で使うことができたなら、脂肪酸を減らして脳細胞の働きを高められることになるので、メタボリックシンドローム対策と認知症予防の両方に効果があることになります。しかし、細胞の中で発生したエネルギーは、その細胞の中でしか使うことはできません。一つひとつの細胞がエネルギー源を取り込み、細胞内で代謝を起こし、不要となった老廃物などを排出しています。細胞は他の細胞で作られたエネルギーを使うことができないので、こちらの発想もかなえることはできません。
ただ、脂肪酸のエネルギー代謝によって作り出されたエネルギーは血流を高めて、脳細胞に送られてくるブドウ糖と酸素を増やすことはできます。細胞内で発生したエネルギーのうち約半分は熱に変換されています。これによって血液が温められて、流れやすくなります。日本人は脂肪摂取が少なかった歴史から、脂肪をエネルギー化する能力が低く、体熱の発生量も少なくなっています。血管も全身の細胞も温められることによって働きが高まっていくので、温かな血液が次々と送られてくると血管の収縮がよくなって、血流が盛んになります。
温かな血液によって適度に温められた脳細胞は、代謝も盛んになって、脳細胞の中で作られるエネルギー量も多くなります。質問の内容とは異なるのですが、結果として同じようなことができるわけで、運動によって全身の筋肉を動かすことは脳の働きも盛んにする結果となるということです。