脂肪酸と中性脂肪の合成の認識ギャップ

肝臓には多くの働きがありますが、脂肪合成は大きな役割の一つです。このコーナーで何度か紹介していて、メディアにも情報発信してきたのですが、いまだに充分な把握がされていないようで、テレビ番組を見ていたら、いきなり肝臓で中性脂肪が合成されるような説明がされていました。最終的には中性脂肪が合成されて、これが肝臓の中に蓄積されるとともに脂肪細胞の中にも蓄積されていきます。しかし、初めから保存型の脂質である中性脂肪が合成されるというのは間違いといえます。
脂肪の基本構造となるのは脂肪酸です。脂肪酸は通常は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大きく分類されていて、飽和脂肪酸は動物性食品に多く含まれ、動脈硬化のリスクを高めることが知られています。一方で不飽和脂肪酸は植物性食品と動物では魚類に多く含まれています。いわゆる血液サラサラの脂肪酸となっています。脂肪酸は肝臓に限らず、全身の細胞内で行われていて、エネルギー源のブドウ糖と脂肪酸は細胞内でアセチルCoAに変化したあとクエン酸となって、エネルギー産生の小器官であるミトコンドリアの中にあるTCA回路でエネルギー代謝が起こります。
アセチルCoAから脂肪酸が合成されるのですが、そのときには脂肪酸合成酵素の脂肪酸シンターゼが働きます。肝臓の細胞には多くのミトコンドリアがあり、脂肪酸をエネルギー源としてエネルギー代謝を起こす一方で、余分となったエネルギー源(糖質=ブドウ糖、脂質=脂肪酸、たんぱく質=アミノ酸)を材料にして、脂肪酸を合成しています。脂肪酸に合成するのは、同じ重量でエネルギー量が高いからで、糖質とたんぱく質は1gあたり約4kcalですが、脂質は約9kcalと2倍以上のエネルギー量があります。少ない容量で多くのエネルギーを保存するために、脂肪酸合成を行っているわけです。
脂肪酸が3個とグリセロール1個が結びついたのが中性脂肪で、肝臓では脂肪酸を材料にして中性脂肪が作られます。中性脂肪は脂肪細胞に蓄積されて、エネルギーが必要になったときには分解されて脂肪酸が血液中に放出されます。この脂肪酸がエネルギー源となって、全身の細胞でエネルギー産生が行われるわけです。