脳の機能を高めるヒトケミカル

健康スポーツの関係者が集う場で、顔見知りの先生方に「エネルギー代謝のヒトケミカル」という話をして回っていたら、多くの方から言葉こそ違うものの「脳のエネルギー代謝を高めたら認知症は予防できるのか」という質問を受けました。会合の席だったので詳しくは別の機会にということで、できるだけ多くの方と話をするほうを優先させたのですが、この情報を見ている方も多いので、これを利用して簡単な答えを出させてもらいます。
ヒトケミカルのうちα‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10の三大ヒトケミカルは糖質と脂質をエネルギー代謝するために必要な生化学成分であり、細胞の中で作り出したエネルギーは細胞の中で使われます。一つひとつの細胞を充分に働かせるためには、その細胞の中でのエネルギー代謝を高めなければならないわけで、エネルギーの“地産地消”のようなものです。
エネルギーになる材料は三大エネルギー源の糖質、脂質、たんぱく質で、これ以外の成分はエネルギーとはなりません。ほとんどの細胞は三大エネルギー源を使うことができるのですが、脳細胞だけは特別で、糖質のブドウ糖しか使うことができません。ブドウ糖を細胞のミトコンドリア内に取り込んで代謝を起こすときに必要となるのはα‐リポ酸です。体内で使われるα‐リポ酸といえば天然型のR体のα‐リポ酸と決まっているので、専門家の間ではα‐リポ酸と言ったら「R‐αリポ酸のこと」とすぐにわかってもらえるのですが、人工型のS体のα‐リポ酸と区別するために、一般向けにはR‐αリポ酸と明記しています。
脳細胞の機能を充分に高めるためには、脳のエネルギー源となるブドウ糖が含まれている糖質を充分に摂って、ブドウ糖をミトコンドリアの中に取り込んで、そしてエネルギーとすることです。頭が回らない状態になると、よく「エネルギー切れ」というような表現をする人がいますが、まさにブドウ糖が不足することと、R‐αリポ酸が不足することで脳細胞のエネルギー切れになってしまうこともあるわけです。
ダイエットのため、生活習慣病の改善のために糖質制限をする人がいます。糖質を制限するのは、ある程度の量ならよいとしても、行き過ぎて何も食べない、糖質が含まれた調味料もダメというような極端な制限となると脳のエネルギー源が足りなくなります。ブドウ糖が不足して脳が働かなくなったら大変なので、体内にはタンパク質からブドウ糖を作り出す糖新生という仕組みがあります。これによって補えるといっても生命維持に必要な量の補充であって、脳をフルに働かせるには足りません。ましてや認知症の予防、認知機能の維持を考えると、ブドウ糖を充分に摂って、R‐αリポ酸によってエネルギー代謝を高めることが正解です。
R‐αリポ酸は全身の細胞のブドウ糖をエネルギー化する代謝促進作用があるので、ブドウ糖が脳を働かせるために使われる量を上回っても、余分な分はエネルギーとしてくれるので、太るようなこともなくなるわけです。R‐αリポ酸は20歳をピークに減少し続け一方であるだけに、認知機能が心配になる年齢になったらR‐αリポ酸はサプリメントで補うことを考えないといけないということです。