苦情のない病院給食はよい食事の証拠か

病院の栄養管理の学会などの発表の場で、「うちの病院は食事への苦情がない」ということを、胸を張って発言している医師や管理栄養士がいます。苦情がないということは病院給食の内容に満足しているということを言いたいのでしょうが、そうとは限らないことは栄養管理の現場取材をしているとわかっています。
身体の状態がよくなくて、食欲が湧かない状態のときには、食欲が湧くような、食べやすい料理、できれば好きな料理を食べたいと思うはずです。医療は“個人対応の時代”とは言われているものの、病院の限られた施設と労力の中で提供される病院給食となると、患者一人ひとりの要望を聞いて、三食の献立を作るわけにはいきません。献立を統一して、個人の禁忌を考慮して調理法や味付けをしていくのが基本となります。個人対応といっても、好き嫌いを配慮するのではなくて、塩分制限、糖質制限、たんぱく制限、脂質制限などの条件、消化吸収などを考慮して変化をさせることを病院給食では指しています。
苦情がないといっても、患者の心理を考えると、まず患者が食事について話をする看護師が、ちゃんと受け入れてくれなかったら、次から苦情や要望を言う気がなくなるということもあります。3回言って反応してくれないと、まず言う気が失せてしまいます。
これとは逆に、患者からよくない評判の声が多い病院もあります。そのすべてが食事を作る側の問題とは限らず、治療に対して文句が言えない代わりに食事に文句を言うという例も多いのです。病院の中には入院中と退院時に患者にアンケートをとっているところがあります。ある大学病院で、入院中のアンケートでは食事への苦情が多く、退院時のアンケートでは苦情が少ないということがあり、その分析チームに加わりました。入院中は食事が楽しみで期待値が大きいだけにギャプを感じてしまいがちであり、退院するときには、これから食事は自由に(?)できるので、苦情をつける必要がなくなったから、というのは大方の意見でした。
しかし、医師や看護師に文句があっても入院中は言いにくく、捌け口を食事にしているという心理があることを長年の取材によって知っています。それが証拠に、退院時には医師や看護師だけでなく、事務にも清掃にまで苦情が書かれていることが多くなっています。病院給食は苦情をつけやすいということも大いに関係しています。