血糖値が下がれば「糖尿病は治った」でよいのか

糖尿病は血糖値が空腹時で126mg/dl(1デシリットルの血液中に126mg)以上、食後2時間後で200mg/dl以上が診断基準となっています。この数値を下回っていれば糖尿病ではなくて、診断基準を超えないように食事や運動を注意するのは正しいことです。しかし、この数字が一人歩きをして、血糖値が下がれば糖尿病ではない、血糖値を上昇させる食べ物を避ければ糖尿病は治せるということを言い出すようになると、これは大問題です。
それを言っているのが糖尿病の食事療法を充分に理解していない患者なら仕方がないと考えることはできるのですが、医者が言っていて、しかも糖尿病の治療を得意としているというような紹介をされると、これは放ってはおけません。そのことはメディア関係者、中でもテレビ番組の担当者には再三伝えているのですが、今もって「糖質が多く含まれる食品を食べなければ糖尿病が治る」という言い方をしている専門家を登場させています。そして、ゲストのタレントが、なるほどと言って専門家の説に納得しているような顔をしているのを見ると、これは黙ってはいられないことです。
血糖は血液中のブドウ糖のことで、食事をすると血糖値が上昇するのは、主食(ご飯、パン、麺類など)にブドウ糖が含まれているからです。このブドウ糖の量を減らせば血糖値は大きく上昇しないようになります。それをもって、血糖値が糖尿病の診断基準を下回っていれば、見た目だけは糖尿病でないようになるものの、血糖値は診断のための数値であって、糖尿病の本質が改善されたわけではありません。
糖尿病は膵臓から分泌されるホルモンのインスリンの分泌量が減るために、細胞に取り込まれるブドウ糖が減る病気で、その取り込まれなかったブドウ糖が血液中に戻ることから血糖値が上昇したままとなります。そして、多くなりすぎたブドウ糖は尿とともに捨てられます。
血糖値が下がって、尿の中のブドウ糖(尿糖)が減れば、見た目的には糖尿病ではないのと同じになるわけですが、血糖値が下がればインスリンの分泌量が元の状態に戻るわけではありません。膵臓は血糖値が高いうちは、インスリンを出し続けます。そして限界まで働き続けると急にインスリンの分泌量が減って、血糖値が下がらなくなります。これが糖尿病で、一時的に血糖値が下がっても、膵臓が回復するわけではありません。血糖値が低い状態が長く続くことで徐々に回復させることは可能ではあっても、それは難しいことです。
というのは、ブドウ糖が足りないとインスリンを分泌させる膵臓のランゲルハンス島のβ細胞も、他の細胞と同じように、その中にあるミトコンドリアによってブドウ糖を材料にしてエネルギーを作り出しています。細胞の中で作られたエネルギーは、細胞の中で使われて、それぞれの細胞の機能が発揮されます。β細胞はブドウ糖を取り込んでインスリンを分泌させるわけで、インスリンが不足するとβ細胞にブドウ糖が充分に取り込まれなくなり、インスリンの分泌が低下します。ブドウ糖はβ細胞を回復させて正常に働かせるためにも必要であるので、ただブドウ糖の摂取を減らせばよいということではありません。
適度にブドウ糖を摂って、余分となったブドウ糖は運動で消費して、細胞の中のエネルギー産生を増やすことです。このことはブドウ糖を多く取り込んで、血糖値を下げるために働く筋肉の細胞の働きを高めることにもなるということです。