認知症と痴呆症の認識ギャップ

認知症は高齢社会が進む中にあっては避けようがないものです。認知症は、以前は痴呆症と呼ばれていて、医学用語でもあり、お役所が正式に使う行政用語ともなっていました。これが呼称変更となったのは2004年のことです。痴呆症という言葉は、侮蔑感を感じさせる表現であり、痴呆の実態を正確に表していない、早期発見・早期治療の取り組みの支障になるということで、専門家だけに限らず、広く新しい呼称を求めて決定したものです。
痴呆は確かに侮蔑的な印象がある言葉で、それもあって本人も家族も認めたくない、医療機関にかかるのも遅れるということで、治療の妨げになっていました。医療は早期発見、早期治療で成果をあげてきたことがあり、早期発見のためには身体の健康診断だけでなく、脳の健康診断もすすめられるところですが、これが遅れがちになっていました。それは痴呆症という言葉のせいで、治らない病気というイメージがあったことも関係しています。
痴呆症というと、何もわからなくなるというイメージがあり、今で言えば家族の顔もわからなくなるような重度の状態で、当時の医療現場でも脳が障害を起こして発症するものと思われていたところがあります。脳が障害を起こしているのでは、治療をしても効果がなく、痴呆症になってしまったら諦めるしかないという認識の方が多かったのも事実です。
しかし、痴呆症と診断される状態になっても回復してきて、自分が痴呆症であったときの体験や気持ちを発言する方がみられるようになってきました。これは回復してきた証拠です。病気になった人の体験談、回復のための経験談は新たな治療法を獲得するためには重要なもので、本人にとっても家族にとっても力強いアドバイスとなります。となると、痴呆症は諦めるしかない病気ではなく、完治はできないとしても回復できる疾患ということで、確かに痴呆症の呼称では違和感がありました。
脳がダメージを受けたら回復しないというイメージは依然としてあるものの、脳は常に全体が使われているわけではありません。使われている部分は、わずか10%でしかないという説がありますが、このアインシュタインの考えは今では間違いとされていて、いつでもすべてがフル活動をしているわけではないものの、脳神経は相互に情報交換が行われていて、全部が毎日使われていることは間違いがないようです。
脳は一部が損傷しても、他の部分がカバーして、できるだけ機能を保とうとしています。よく「配線がつながった」という表現がされますが、今まで失われたと思われていた認知機能が回復することがあります。日本メディカルダイエット支援機構では、認知機能の自覚体験(自覚症状)と危険因子をチェックすることで認知機構をチェックする「記憶力チェック」をボランティアで、つまり無料で実施して、それぞれの方の状態を判断して、認知機能を維持・改善するためのアドバイスも実施しています。
これを600名以上で実施して気づいたのは、認知症まで進んだ人は、なかなか治りにくいものの、軽度認知障害の段階の人は改善しやすいということです。血管性の認知障害のリスクが低い人は改善しやすく、当たり前のことすぎるのですが、血圧、血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値が高まりすぎない生活をしている人のほうが改善しやすいということです。
痴呆症と呼ばれていた時代は改善しにくかったことが、認知症と呼ばれる時代になって、改善が可能な、まさに認知症を呼ぶに相応しい状態になってきたということです。