豊かなモノを示す漢字の鱧と醴

パソコンの変換ソフトは便利なもので、魚偏の漢字は文字と読みが一致しないものの、ひらがなで打ち込めばポンと漢字が出てきます。こうなると魚偏の漢字を思える気持ちが弱まってきてしまいますが、鮭(さけ)や鯛(たい)、鯉(こい)はほぼ書けるという人が多いと思います。
鰯(いわし)、鯵(あじ)、鯖(さば)となると少しだけ怪しくなってきます。鮪(まぐろ)、鮎(あゆ)、鰹(かつお)のように比較的よく食べられているものは目にすることもあります。
ところが、鮒(ふな)、鱒(ます)、鰰(はたはた)、鰊(にしん)、鮑(あわび)、鮫(さめ)、蛸(たこ)のように食卓にのぼる機会が少ないものは漢字のほうももっと怪しくなってきます。
鯨(くじら)は食卓によくのぼっていたときには読むことも書くこともできた人が多かったのですが、これも書けない、読めないという人も多くなってきました。
鰻(うなぎ)は漫才師のボケ担当が、これが本名だというので読める人が多いと話していたメディア関係者もいましたが、店の暖簾に書かれているので目にする機会もあります。
漢字から魚の形や季節がわかり、読み方がわかるというものとしては鰈(かれい)、鱚(きす)、鮃(ひらめ)、鰍(かじか)、鰆(さわら)などがあります。
この魚の漢字なら書けると言って、鮓を手書きしてくれた人がいます。こちらの漢字ではなく、鮨のほうを書くのかと思っていたので少し驚きもありましたが、これは寿司屋の湯呑みに書かれている魚の名前の漢字と並んで、店名の漢字として出てきます。言わずと知れた鮨(すし)ですが、この鮨を店名につけるところは多くても、鮓(すし)となると、なかなか見ることはありません。
鮓は塩漬けにした魚や飯を発酵させたもので、熟鮓(なれずし)と呼ばれるものです。これに対して酢と調味料を加えた飯に魚を加えたものが鮨で、早鮨(はやずし)と呼ばれています。時間がかかる熟鮓よりも早く作れるので早鮨ということです。
魚偏の漢字の中でも難解なのが鱧です。豊かな魚とは何かということですが、「はも」と読めるのは関西に多いようです。京料理の代表的な味であるからですが、中国の研究者と話をしているときに鱧の漢字を示したら雷魚(らいぎょ)のことだと言われました。では、日本の鱧は、どんな名前なのかというと海鰻とのこと。鰻に似た細長い海水魚で、ウミヘビ、アナゴ、ウツボを指します。
もう一つ豊がつく漢字で気になるのは醴です。栄養豊富で“飲む点滴”とも呼ばれているもので、一般には甘酒の字が当てられていますが、栄養豊富ということで醴(あまざけ)のほうが適しているようです。
このほかに豊がつく漢字では、體(たい)、軆(たい)、澧(れい)、禮(れい)、艶(つや)がありますが、これについてのコメントは余裕があるときに、ということで。