運動の習慣化は認知機能を改善するのか

運動をすると全身の血流が盛んになると言われていますが、中でもスムーズになるのは脳の血流です。若いうちには運動をしたからといって特に脳の働きがよくなることはないのかもしれないのですが、中年以降には大きな変化が起こることにもなります。血流量が盛んになると、これは脳の働きがよくなっている証拠と見られがちですが、脳機能が徐々に衰えていって、認知症の予備群とされる軽度認知障害になると、かえって血流量が増えてきます。
この結果を見て、軽度認知障害は悪くない状態だと考える人もいるのですが、軽度認知障害は症状が低下することから、これを埋め合わせようとするために血流が増えてくるということが起こります。このことによって認知機能の低下を抑えることができると安易に考える人もいます。しかし、実際には低下を抑えるどころか、さらに低下する予兆と考えることもできます。
有名な研究としては、アメリカのメリーランド大学の研究で、12週間の軽度の運動を続けることで、脳の血流が盛んになっていることが報告されています。この実験では、軽度認知障害のグループと、脳の血流量が低下しているグループ、この他に健康な成人をコントロールグループとして加わってもらい、1日に30分の運動を12週間にわたって実施してもらっています。この運動というのは、中強度から強強度のトレッドミル(自転車漕ぎ)を指しています。
その結果、12週間に脳の血流量を調べたところ、軽度認知障害の人は通常よりも増えていた血流量が減少して、認知機能試験の成績が向上していました。特に変化したのは軽度認知障害の人の左島皮質と左前帯状皮質の脳血流の減少で、これが言語能力の改善に関係していると考えられています。これに対して、脳の血流量が低下していた人は、運動を習慣化させることによって血流量が増えて、認知機能試験の成績も向上していました。
運動を習慣化させることによって認知機能が向上するということですが、その運動として脳に酸素を的確に送り続ける有酸素運動を私たちはすすめているところです。