野菜のビタミンとミネラルが減っている

全身の細胞の働きを高めるためには、多くのビタミンとミネラルが使われています。細胞が正常な機能を維持するためにはビタミンとミネラルが豊富な食品を食べ、体内に入ったビタミンとミネラルが効率よく細胞に運ばれて使われるようにすることが必要です。そのためにも知っておきたいのは、食品の栄養低下の実態です。
ビタミンとミネラルが豊富な食品といえば野菜で、中でもホウレン草は栄養豊富な食品として知られています。それもあって、栄養価の変化を語るときにはホウレン草が例として取り上げられることが多くなっています。一昔前のホウレン草はアク(灰汁)抜きをしないと食べられなかったものですが、今では茹でてアク抜きをしなくても食べられるような品種となり、サラダで食べられるものも登場しています。お湯で茹でると水溶性ビタミンは溶け出てしまいますが、生で食べるならビタミンCなどは豊富に摂ることができると考えがちです。しかし、ホウレン草に含まれるビタミンCは以前に比べて大きく減っています。
戦後初めて発行された1947年(昭和22年)の食品成分表(日本食品標準成分表:文部科学省発行)を見ると、ホウレン草の可食部(食べられる部分)100g当たりのビタミンCは150mgでした。それが1963年(昭和38年)の三訂版では100mgに、1982年(昭和57年)の四訂版では65mgに減少しています。
以前の含有量は年間を通じての平均値のみが示されていたのですが、今では旬と旬以外の含有量の違いも示されています。現在は5年ごとに改訂されていて、2015年版(七訂版)によると旬(冬採り)のホウレン草では60mg、旬以外(夏採り)では20mgとなっています。夏場のホウレン草のビタミンC含有量は冬の3分の1でありません。そして、現在のホウレン草のビタミンCは、1982年の平均値の65mgにも届いていないということがわかります。
終戦直後は農薬も化学肥料もほとんど使われていなかったことから、有機・無農薬で栽培すれば栄養豊富になるのではと考える人もいるのですが、一昔前のホウレン草と現在のホウレン草では品種が異なっています。以前のものは東洋種で葉の切れ込みが深いもので、現在のものは葉が丸い西洋種、もしくは東洋種と西洋種の掛け合わせとなっています。このような品種を有機・無農薬で栽培しても、以前のような栄養価を求めるのには無理があるのです。
品種改良によってホウレン草のアクはなくなっていますが、それと同時に重要な栄養素も失われる結果となっているわけです。