130mmHgの血圧は大したことはないのか

日本高血圧学会は令和元年4月に高血圧治療の指針を改定しました。これは5年ぶりのことで、75歳未満のすべての成人が目指す降圧目標として、収縮期血圧(最高血圧)が130mmHg、収縮期血圧(最低血圧)が80mmHgと定められました。血圧計に示してある基準の数値は135mmHg/85mmHgとなっています。この数値は、日本人の血圧の基準地域とされる大迫町(現岩手県花巻市)の住民を対象にした大迫研究によって得られた健康的な血圧の範囲です。これは家庭血圧の基準とされています。
なぜ基準を“5mmHg”下げたのかというと、合併症がない75歳未満の人は、135mmHg/85mmHgよりも130mmHg/80mmHgのほうが動脈硬化のリスクが低かったからです。わずか“5mmHg”の違いが、それほどに重要なのかということですが、血圧の差をデジタル数字で見ているだけではピンとこない人が多いかと思います。アナログな水銀血圧計を見ても、血圧が高いからといって、それほど大きな差にはなっていません。
しかし、血液によって血管にかかっている圧力は、イメージとは大きく違っています。血圧が130mmHgだと、水銀血圧計を130mm押し上げる圧力がかかっています。水銀の比重は水の13.6倍なので、これを水に換算すると1768mm(130mmHg×13.6)となります。水と血液では比重は1.053なので、ほとんど水と変わらないことになります。血液は1.8mほども押し上げる力がかかっているので、正常値でも大変な圧力となっています。これが180mmHgだったら、2.4m以上にもなってしまいます。
1日の脈拍は10万回とされているので、1分あたりでは70回ほどになります。たった1分間で70回も血液を2.4m以上も押し上げる圧力が血管にかかっていたら、血管の老化が進んでしまい、動脈硬化のリスクが一気に高まってしまうのは容易に想像がつくところです。収縮期血圧を130mmHgに抑えようという基準を出すことも、また理解ができるところです。