脂質異常症(高コレステロール)

1.LDLコレステロールの基礎知識

1)LDLコレステロール値が上昇する原因

 健康診断で血液中のLDLコレステロール値が高いことが指摘されても、自覚症状が現れにくく、生活習慣を改めることなく過ごしてしまう人も少なくありません。自覚症状は出ていなくても、LDLコレステロール値が高いまま長期間放置しておくと、血管が硬くなり、もろくなっていく動脈硬化になりやすく、心疾患(心筋梗塞、狭心症など)や脳血管疾患(脳梗塞など)にもなりかねません。
 LDLコレステロール(低比重リポたんぱく)は、肝臓で合成されたコレステロールを血液を通して全身に運ぶ役割をしています。血液中のLDLコレステロールが多くなると、それだけ全身に運ばれるコレステロールが増えるので、動脈硬化の危険度が高まることになります。
 健康診断でLDLコレステロール値が高いことを医師や栄養士などに指摘され、コレステロールが多く含まれる食品を食べないようにしているものの、なかなか数値が下がらないと感じている人も多くなっています。コレステロールの少ない食事をしても数値が下がらないことがあるのは、血液中のコレステロールに影響を与えているのは脂肪よりも糖質の多い食事だからです。
 血液中のコレステロールは通常は食事に由来しているのは約20%で、残りの約80%は肝臓で合成されています。肝臓が正常に機能していれば、食事で摂るコレステロール量が多くなった場合には、肝臓で合成されるコレステロール量が減り、血液中のLDLコレステロール量が増加しすぎないように調整されています。
 しかし、食べすぎや過剰な飲酒などでエネルギー量の摂りすぎが続き、肝臓の負担が増すと、肝臓で合成されるコレステロール量が増え、LDLコレステロール値が上昇します。また、食生活の欧米化によって肉食や脂肪の摂取量が増え、魚介類を食べる回数が減ったこと、肥満、運動不足も血液中のLDLコレステロールを増やす原因となっています。

2)動脈硬化の判定基準

 脂質異常症のうち、LDLコレステロール値が高くなった場合が高LDLコレステロール血症です。
 血液検査では、LDLコレステロールとHDLコレステロールの値が調べられます。
 コレステロールや中性脂肪は、脂肪であることから、そのままでは水に溶けにくい分子構造のため、親水性のたんぱく質と結合してリポたんぱくとして血液の中を流れています。コレステロールはLDLコレステロール(低比重リポたんぱく)やHDLコレステロール(高比重リポたんぱく)などによって血液中を輸送されています。
 コレステロールは、細胞膜、各種ホルモン、胆汁酸の材料となる重要な成分となっています。LDLコレステロールは、コレステロールを肝臓から体の必要な部分まで運ぶ役割をしていますが、LDLコレステロールが多すぎると活性酸素によって酸化され、酸化したコレステロールは動脈壁に入り込んで沈着し、動脈壁を硬く、そして厚くしていきます。さらに、血液中のコレステロールが増えすぎると、動脈硬化のリスクが高まることから、悪玉コレステロールとも呼ばれています。
 HDLコレステロールは、動脈壁などの余分なコレステロールを肝臓に運ぶ役割があります。HDLコレステロールは動脈硬化の原因ともなる血管壁にたまっているコレステロールを回収して動脈硬化のリスクを低下させることから、善玉コレステロールと呼ばれています。
 脂質異常症は、LDLコレステロール値が140mg/dl以上、HDLコレステロール値が40mg/dl未満、中性脂肪(トリグリセリド)値が150mg/dl以上の、いずれかのときに診断されます。
 LDLコレステロール値は、各人の状態(リスクの数)によって目標値が異なります。心臓病を起こしたことがない人(一次予防)で、LDLコレステロール以外の危険因子がない低リスク群の場合にはLDLコレステロール値は160mg/dl未満、危険因子が1~2の中リスク群の場合には140mg/dl未満、そして、危険因子が3以上の高リスク群の場合には120mg/dl未満となっています。
 心臓病を起こしたことがある人(二次予防)では、より厳しく管理して再発を防ぐために、LDLコレステロール値は100mg/dl未満とされています。
 どの段階においても、HDLコレステロール値は40mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセリド)値は150mg/dl未満となっています。

2.動脈硬化の危険因子

1)高LDLコレステロール血症の危険性

 LDLコレステロール値が高い状態が長く継続すると、動脈硬化が進み、血管が硬くなり、狭くなっていきます。しかし、血管径が約75%狭窄するまでは、そこを流れる血液の量は大きくは変わらず、ほとんど変化もありません。そのため自覚症状が現れにくく、生活習慣を改めることなく過ごしてしまう人も少なくありません。
 胸の痛みや階段の昇り降りでの息切れ、頭痛、めまいなどの動脈硬化の自覚症状が出たときには、血管は75%以上が詰まった状態にまで進行しているとみることができます。そして、心臓の冠状動脈で動脈硬化が進行すると狭心症、心筋梗塞など、脳動脈の硬化では脳梗塞などになります。
 日本人の死因のうち動脈硬化が要因となっている心疾患、脳血管疾患は、がん(約29%)に次ぐ第2位(約15%)、第4位(約10%)となっています。心疾患、脳血管疾患を予防するためには、動脈硬化につながる高LDLコレステロール血症を予防することが非常に重要になります。

2)LDLコレステロール以外の危険因子

 動脈硬化の危険因子には、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症のほかに、高血圧や糖尿病、喫煙などがあげられます。これらの疾患や喫煙は動脈の内側の壁を傷つけ、コレステロールの血管壁への侵入がより促進されます。これらの危険因子が当てはまる人は、よりLDLコレステロール値のコントロールが必要であり、これらの危険因子を減らすことが大切となります。
 また、加齢(男性は45歳以上、女性は55歳以上)、冠動脈疾患の家族歴も危険因子となっています。

3.コレステロール改善の食事のポイント

 血液中のLDLコレステロールを減らすためには、運動療法や薬物療法も用いられますが、基本となるのは食事の改善です。そのための方法として、それぞれの条件によって、食事に関して以下のポイントがあげられます。

1.LDLコレステロール値が高い場合

 LDLコレステロール値だけが高い場合には、以下のポイントが大切になります。

1)適正なエネルギーの摂取

 食べすぎや肥満は、肝臓でのコレステロールの合成を促進します。太っている人は食事量を減らすことで、体重を減らし、肥満が解消されると血液中のLDLコレステロール値は低下します。1日に必要なエネルギー量は、性別、年齢、活動量などによっても異なりますが、肥満の人の場合には標準体重1kg当たり25~30kcal、肥満でない人は標準体重1kg当たり30~35kcalを目安にします。

2)脂質の摂りすぎに注意

 油脂は、構成成分である脂肪酸によって、身体への作用が異なります。動物性の脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸には、血液中のLDLコレステロールを上昇させる作用があります。それに対して植物油や魚油に多く含まれる不飽和脂肪酸には、血液中のLDLコレステロールを低下させる作用があります。
 植物油に含まれる脂肪酸の中で、リノール酸は多く摂りすぎるとLDLコレステロールを減らすだけでなく、HDLコレステロールも減らす作用がありますが、オレイン酸はHDLコレステロールを減らさないといわれています。魚油に含まれるEPAやDHAには、血小板凝集抑制作用があり、血栓予防効果が期待されます。肉食を減らし、魚食を増やすとともに、植物油も適量を摂るようにします。
 また、コレステロールの低下作用がある植物油や魚油でも、摂りすぎはエネルギー過剰で肥満などの原因になります。脂肪の摂取量を控えめにすることが重要です。

3)食事由来のコレステロールの制限

 LDLコレステロール値が高い人では、調整能力が落ちているため、レバー、いくら、かずのこ、たらこ、うに、鶏卵などのコレステロールが多く含まれた食品の摂りすぎはLDLコレステロール値を上昇させます。LDLコレステロール値の高い人では、食事からのコレステロール摂取量は1日300mg以下が目安とされます。

4)食物繊維の摂取

 海藻類、キノコ、りんごなどの果物に多い水溶性食物繊維にはLDLコレステロール低下作用があります。根菜などの野菜に多い不溶性食物繊維は、水分を吸って膨らむため満腹感が得られ、食べすぎを防ぐことができます。1日の摂取量の目標は20~30gとします。

5)植物性たんぱくの摂取

 大豆たんぱくなどの植物性たんぱくにはLDLコレステロール値を低下させる作用があり、大豆や大豆製品(納豆、豆腐)を摂取する回数をできるだけ増やします。

6)抗酸化成分の摂取

 LDLコレステロールは活性酸素の酸化によって変性LDLコレステロールになると、血管壁に蓄積していきます。それを防ぐためにはLDLコレステロールを減らすとともに、活性酸素による酸化を防ぐ作用がある抗酸化成分を多く摂るようにします。ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン、緑茶のカテキン、トマトのリコピン、ゴマのセサミンなどに抗酸化作用が認められています。

2.LDLコレステロール値と中性脂肪値が高い場合

 LDLコレステロールと中性脂肪の両方の値が高い場合には、LDLコレステロール値が高い場合の食事の注意点に加えて、中性脂肪を増加させやすい甘いものとアルコールに注意します。

1)甘いものを控える

 糖質を多く摂りすぎると中性脂肪の合成が進みやすくなります。糖質の中でも特にショ糖(砂糖)、果糖、ブドウ糖などは中性脂肪に変わりやすいため、果物、清涼飲料、菓子類は控えめにします。

2)アルコールを控える

 アルコール飲料を多く飲むと、肝臓での中性脂肪の合成が促進されます。飲酒によって中性脂肪が増加した場合には、禁酒することで減らすことができます。

3.HDLコレステロール値が低い場合

 HDLコレステロールを増やす食事は確定されてはいませんが、以下の方法で増える傾向があることが知られています。

1)エネルギー量を適正にする

 肥満ではHDLコレステロールが減少することが知られ、食事量を制限して体重を減らすと逆にHDLコレステロールは増えていきます。

2)適度なアルコールの摂取

 日本酒なら1合、ビールなら中ビン1本、ウイスキーならダブル1杯程度の飲酒はHDLコレステロールを増やす傾向があります。ただし、たくさん飲んだからといってHDLコレステロール値が飲んだ分だけ上昇するわけではないので、飲みすぎには注意が必要です。

4.コレステロール対策サプリメント

1)コレステロール吸収抑制

 血液中のコレステロールのうち食事に由来するのは20%ほどだとされていますが、それでも食品に含まれるコレステロール減らすことは必要です。コレステロールが腸壁から吸収されるのを抑制します。
○コレステロール吸収抑制作用のある素材
 オレイン酸/プーアール茶

2)コレステロール合成抑制

 肝臓で合成されるコレステロールを増やしすぎないものとして、不飽和脂肪酸のDHAとEPAが知られています。医薬品のスタチンはコレステロールの合成阻害に使われていますが、スタチンは紅麹にも含まれています。
○コレステロール合成抑制作用のある素材
 DHA/EPA/紅麹

3)HDLコレステロール増加

 オキアミのクリルオイルは、不飽和脂肪酸のほかリン脂質、抗酸化成分のアスタキサンチンが含まれ、これらによってHDLコレステロールを増加させる作用が認められています。
○HDLコレステロール増加作用のある素材
 クリルオイル