体質改善

ミトンドリアは運動をすることによって増やすことができます。筋肉を刺激する運動は筋肉量が増えることから、筋肉を構成する細胞の筋繊維が増え、そのためにミトコンドリアも増えるというように思われがちです。しかし、運動によって筋肉が増えるのは筋繊維が傷つき、筋繊維の周りにある衛星細胞が増殖して、筋繊維にくっついてタンパク質などを与えることから筋繊維が太くなっていきます。筋繊維が増えるのではなく、筋繊維が太くなっていくというメカニズムになっています。
運動をすると筋肉細胞ではミトコンドリア内で産生されたエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)を分解して筋肉を動かしていますが、ATPが分解されてリン酸が一つ離れることによってADP(アデノシン二リン酸)となり、そのときにエネルギーが発生します。そのあと、ADPからリン酸が一つ離れたAMP(アデノシン一リン酸)が増えていきますが、AMPが増えるのはエネルギー不足の飢餓状態で起こることであり、体は飢餓状態に対する反応を起こしていきます。その反応として特に見られるのが骨格筋に多いAMPキナーゼ(AMPK)という酵素の働きで、AMPによって活性化される蛋白リン酸化酵素であることからAMP活性化プロテインキナーゼとも呼ばれます。
AMPキナーゼが働くことでPGC1aというタンパク質を活性化させますが、PGC1aにはミトコンドリアの合成を促進する指令が核内遺伝子に与えられます。指令を受けるとミトコンドリア合成のために必要な核内遺伝子が働き、ミトコンドリアを構成するタンパク質成分が細胞質で作られます。その結果、すでに存在しているミトコンドリアに構成成分が付け足されてミトコンドリアの体積が増えていくことになります。運動をすることでミトコンドリアが増えていくと一般に言われていますが、これはミトコンドリアの数が増えるのではなく、ミトコンドリアが大きくなり、エネルギー産生の能力が高まっていくことを示しています。
AMPキナーゼはグルコース(ブドウ糖)の代謝を促進させ、血糖値を下げる働きがあることが知られています。内臓脂肪には生理活性物質のアディポネクチンを分泌する作用があり、アディポネクチンは血液によって骨格筋細胞まで運ばれ、AMPキナーゼを活性化しています。これによってAMPキナーゼは細胞膜に存在するグルコース輸送装置のGLUT4に信号を出し、グルコースを外部から多く取り込むように指令が出されます。GLUT4は筋肉細胞の中にあり、通常は奥にあるのですが、指令を受けると細胞の表面に出てきてグルコースを取り込んでいきます。これによって血液中のグルコースは細胞に取り込まれ、細胞内ではミトコンドリアに取り込まれて、ATP産生に利用されることになります。
内臓脂肪に脂肪が多く蓄積されるとアディポネクチンは分泌量が大きく低下しますが、これが継続的に起こるとグルコースが消費されなくなり、糖尿病を悪化させる要因となります。AMPキナーゼは運動によって活性化されるため、運動によってGLUT4が骨格筋細胞の表面に出ることによってグルコースの取り込みが促進されて、血糖値が下がっていきます。この仕組みがあることによって運動をすると血糖値を効果的に下げることができるわけです。
AMPキナーゼが活性化されるとミトコンドリアのエネルギー産生が高まっていくことから、運動は糖質(グルコース)の代謝とともに脂質の代謝も促進して、さまざまな生活習慣病の対策にも役立つことがわかります。
運動は無酸素運動と有酸素運動に大きく分けられます。ミトコンドリアの能力を効果的に高めるのはAMPキナーゼが働きやすい有酸素運動で、ウォーキングなどを長く続けることによってエネルギー不足状態が起こると、ミトコンドリアが活性化され、糖と脂肪の燃焼が進むことが知られています。有酸素運動は定期的に実施することが大切で、有酸素運動を休んでいる期間が長くなるとミトコンドリアの体積が元に戻っていくことが知られています。
また、ミトコンドリアの体積は加齢によって減少することが確認されており、年齢を重ねるほどミトコンドリアの能力が低下していくことになります。中高年者や高齢者はミトコンドリアのエネルギー産生の能力が低下することから、必要なATPが充分に産生されなくなり、これが老化を進める要因となりかねません。そのため、年齢を重ねるほど有酸素運動によってミトコンドリアの体積を増やすようにすることが重要となるわけです。
ミトコンドリアの体積を増やすと同時に、ミトコンドリアでのエネルギー産生を増やすことによって老化の抑制とともに、血液中の糖と脂肪を適度に抑えて、メタボリックシンドロームや生活習慣病の予防を図ることができるようになります。ミトコンドリアでのエネルギー産生は酸素が用いられることから有酸素運動が有効となりますが、無酸素運動もAMPキナーゼの働きによって有効となることが判明しています。
無酸素運動は息を止めてできる筋肉トレーニングや短距離走などを一般に指していますが、本来なら有酸素運動であるジョギングも身体的な負担が高まると無酸素領域の運動となる。運動をやり慣れていない人にとっては1時間程度のウォーキングであっても無酸素運動となる可能性もあります。
無酸素運動は酸素を用いなくてもできる運動のことですが、有酸素運動によってミトコンドリア内でATPが多く産生されるのに対して、無酸素運動ではATPが逆に消費されるようになります。
無酸素運動によってATPが消費されたときにはADPが増えたことによって、AMP/ATP比が増加します。これは細胞内エネルギーのレベルが低下したことを示しています。その結果、エネルギー不足のサインを細胞内のエネルギーセンターであるAMPキナーゼが察知して、ミトコンドリアでの脂肪燃焼能力が高まっていきます。この状態で有酸素運動を行うとATPが多く産生されるようになることから、脂肪を効果的に燃焼させるためにはAMP/ATP比をコントロールするように、無酸素運動と有酸素運動を交互に行えばよいことになります。
AMPキナーゼは運動、低糖質、低酸素、カロリー制限など細胞ストレスが高まり、ATP供給が枯渇する状態で活性化するわけですが、カロリー制限は長寿遺伝子を働かせ、ミトコンドリア再生を盛んにすることが知られています。
通常の食事をして摂取エネルギー量の不足がない状態では、ATPの産生は主には糖(ブドウ糖)から行われています。糖からATP産生が盛んに行われている場合には、ミトコンドリア内で活性酸素が多く発生するようになります。活性酸素は細胞を傷つけることが知られていますが、中でもDNAを損傷する作用があり、これが老化を進め、早死が起こる要因となっています。それに対して食事量を減らした腹七分目の量にすると脂肪(脂肪酸)からのATP産生が進んでいきます。
この状態ではNAD(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)が生成され、長寿遺伝子が働くことが知られています。NADはエネルギー代謝で重要な役割をする補酵素で、ビタミンB群のナイアシンから生成されています。
長寿遺伝子によって再生されたミトコンドリアは活性酸素をあまり排出せずにATPを合成できる高効率的なミトコンドリアであり、再生ミトコンドリアを増やすことは抗老化や長寿につながることになります。
実際の成果を得るためにサルを用いた試験が行われていますが、30%のカロリー制限をしたサルでは老化の症状が抑えられ、長生きをすることが2009年に報告されています。ところが、2012年にはカロリー制限をしてもサルの寿命が変わらないとの前出の試験結果を疑問視するような報告がありました。この結果が検討され、どちらの場合にもカロリー制限がミトコンドリアを増やしていることが確認され、単純にカロリー制限をすれば寿命が延びるわけではなく、食べ過ぎている場合にカロリー制限に効果があるという結論が得られています。