健康食品&食品の法規制

日本人は歴史的には動物性たんぱく質と脂肪の摂取が少なかったことから血管の栄養不足となり、血管が弱い体質となっていました。それが今から72年前の終戦(第二次世界大戦)から、わずかな期間で食生活の内容は大きく変化しました。その変化は1200年分に相当するとも言われています。今から1200年前というと、弘法大師空海が活躍した平安時代前期です。戦後の食事の変化で、動物性たんぱく質と脂肪が増えたことから血管が丈夫になり、免疫も高まっていきましたが、今ではそれらの摂りすぎから血管に負担がかかり、動脈硬化を増やす結果となっています。
日本の食事は急激に洋風化してきたわけですが、食事の変化の影響を知るために用いられているのが日本人とアメリカで暮らす日系人の比較データです。両親ともに日本人の日系二世は日本人と同じ遺伝子を持っているものの食生活は移住した地域の食事の影響を受けています。食事内容を見ると日本の伝統食とアメリカの食事の両方が取り入れられているのがわかります。
脳卒中と虚血性心疾患の頻度を日本、ハワイ、カリフォルニアで比較したデータでは、脳卒中は日本に多く、ハワイもカリフォルニアも低くなっています。これは日本人の塩分摂取が多く、高血圧患者が多いことが関係しています。虚血性心疾患は日本に比べてハワイで多く、ハワイに比べてカリフォルニアで多くなっています。これは脂肪の摂取量と関係していて、日本、ハワイ、カリフォルニアの順で脂肪の摂取量が多くなり、これが動脈硬化を増やすことと関係しています。
40歳代の日本人、日系アメリカ人、アメリカ人(白人)で、動脈硬化の状態(冠動脈石灰化、頸動脈内膜中膜複合)を比較すると、日本人よりもアメリカ人が動脈硬化の度合いが高いのは当然の結果ですが、日系アメリカ人はアメリカ人よりも動脈硬化の度合いが高くなっています。これは日本人そのものの体質を持った人が洋食を多く食べることで、アメリカ人よりも動脈硬化が進んだことを示しています。
これとは別のデータですが、40歳以上の日本人、日系アメリカ人、アメリカ人(白人)の糖尿病の有病率の比較では、アメリカ人は日本人の約1.5倍だったのに対して、日系アメリカ人は日本人の約3倍となっています。日本人の食事は糖質が多いために血糖値が上昇しやすいと一般には言われてきましたが、インスリンの分泌量が少ない日本人が脂肪を多く摂取すると糖尿病が発症しやすくなります。
そのメカニズムですが、インスリンには細胞にブドウ糖を取り込んで血糖値を抑える作用と同時に、肝臓での脂肪合成を進め、脂肪細胞の中に脂肪が蓄積されるのを促進する作用があります。後者の作用によって欧米人は脂肪を多く蓄積することができます。それに対して日本人は歴史的に脂肪の摂取が少なかったために脂肪を多く蓄積するほどインスリンが分泌されない体質となっています。ところが、現在の日本人は脂肪の摂りすぎからインスリンが多く必要となっています。インスリンを分泌する膵臓は血液中のブドウ糖が多いほど、脂肪が多いほど分泌されますが、膵臓は限界まで働き続ける特徴があります。そして、限界に達したときに急に分泌量が減り、細胞に血液中のブドウ糖を取り込みにくくなります。それによって血糖値が高い状態が継続するのが糖尿病です。
食生活の変化が動脈硬化に大きな影響を与える例として、エスキモーからイヌイットと呼び名が変わった人たちの肉食の変化があげられています。日本人の例ではないものの主食の中身が変わり、調理法が大きく変わったことで動脈硬化が急増したその結果は、日本人の体質と健康を考える上でも大いに参考となります。
エスキモーという呼び名は今では使ってはいけないとされています。エスキモーは現地の言葉で「生肉を食べる人」という意味ですが、生肉を食べていたのは昔の話で、今は食べていないので相応しくないということからです。そのため、今は「イヌイット」という民族名が使われているわけです。エスキモーの時代に食べていたのはアザラシの生肉です。彼らはカナダとアラスカ、グリーンランドという寒冷地に住んでいた先住民族のため、野菜、穀類、果物などの食料は少なく、主な食料はアザラシを中心とした肉類と魚でした。
欧米ではイギリス、ドイツ、フランスなど北部で文明が栄えたことから歴史的にエネルギー源を肉類に頼り、肉食文化が進んでいきましたが、その欧米人と比べてもエスキモーは2倍以上の量の肉を食べていました。アメリカ人の死亡原因の第1位は心筋梗塞などの心疾患で、エスキモーは、その2倍もの肉を食べていたのに、動脈硬化の発症率はアメリカ人の半分ほどでしかなかったのです。
その理由ですが、アザラシの肉は牛や豚などと違って不飽和脂肪酸が多く、魚を中心に食べているのと同じような良質の油が摂られていました。アザラシが主にエサにしているのはイワシなどの青背魚が中心で、青背魚にはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったオメガ3(n‐3系)の油が豊富に含まれていて、いわゆる“血液サラサラ”のもととなっています。エスキモーはアザラシを通して青背魚の油を摂っていたため、動脈硬化を起こしにくかったわけです。
ところが、生活の変化から、肉も生ではなく焼いて食べるようになり、食べる肉も牛や豚などが多くなるにつれて、疾病にも変化が起こりました。違う種類の肉を、別の調理法で食べるようになったとはいえ、食べる量は、そうそう変わるものではありませんが、イヌイットの時代になって動脈硬化はアメリカ人の2倍に、つまり一気に過去の4倍にも増える結果となりました。
日本人は特異な体質である上に、食生活が短期間のうちに急激に変化しただけに、「まるで全国民がアメリカに移住したようなもの」とも言われています。それだけに、日本人の体質に合わせた食事を見直すと同時に、体質に合わせたケアが必要であり、その知識を身につけなければ幸せな長生きをできない時代となっているのです。