日々修行259 先生と呼ばれることの不安

一対一での関係では私のことを「さん」をつけて呼ぶ人が、他の人がいる場合には「先生」と呼ぶというのは、当たり前のことと認識していました。

他の人がいる場合というのは、2人きりで対面で話をしていたところに、途中から、もう1人が加わったということではなくて、たとえば講習会、講演会などの公の場で“先生役”をしているときのことを言っています。

“先生”は先に生まれた人という意味があって、年長者や経験がある人に対して使われる敬称ではあるのですが、元々の意味ではなくて、その場にいる最年長でなくても「先生」と呼ばれることはあります。

以前に参加した団体の会合でのこと、呼びかけてくる人(仮にAさん)が、その人よりも年上には「先生」、年下には「さん」と使い分けられていることがありました。

「同じ年齢であったときには、どちらの呼び方をするのだろうか?」と気にはなったのですが、その場にいた人は実際の年齢を聞かなくても、外見から年齢順に並べることが可能という方々だったので、違和感なく会議は進んでいきました(いったように感じていた?)。

ほぼ同じ顔ぶれの別の会合でのことですが、そのときにAさんが前の会議のときとは違った「さん」と「先生」の使い分けをしていました。

そのときには意見を交わすというよりも、経験から“先生役”をして話をする人には年齢的に若くても「先生」と呼び、若くて“先生役”をしなかった人には「さん」で呼んでいました。

会社勤めをしたことがない私にとっては、そういった敬称の使い分けが常識となっている業界なのだろうかと感じていたのですが、次の会合のときには外部の専門家は全員の敬称が「先生」になっていました。最も年齢が若くて、経験も少ない私が、かなり年齢が高い団体役員から先生と呼ばれるのは、違和感を感じていました。

その変化は、後から聞いたところ、どうやら「さん」で呼ばれた専門家の“先生”から苦情があったようです。

その団体役員と厚生労働省(霞が関の本省)に出向いたときのこと、先生と呼んでいた人のことがお役人との間で話題になったときに団体役員が「○○先生」を使っていました。その方を先生と呼んでいたことから医師だと思って、話を進めてきて、途中で医師ではないことがわかって、決まりかけていた話が白紙に戻ってしまったことがあります。

厚生労働省の会議(委員会や検討会など)に私も委員として何度か参加したことがありますが、私が専門家である分野であっても先生と呼ばれることはありませんでした。大抵は会議の中の立場の呼び名(委員、専門員など)でした。

先生という呼び方は、初めて呼んだときの敬称が続いているだけということもあって、尊敬の意味合いというよりも、口癖になっていることもあります。

大学病院の医師と管理栄養士の関係から始まった2人(ともに親しく付き合ってきた方)が、いつしか医師は年齢もあって教授から徐々に肩書きと立場が下がってきて、管理栄養士は出世して教授になりました。

また、ともに所属する医学系の学会でも管理栄養士は副会長まで行ったのですが、それでも医師は「さん」で呼び、副会長のほうは「先生」と呼び続ける関係が、今でも続いています。そのときの癖が、学会の学術集会の席でも出てしまい、副会長に恥をかかせるようなことになってしまったことがありました。

呼ばれた本人は気にしていなかったのですが、学術集会に参加していた会場の参加者が「さんづけ」で呼ばれたことに違和感があって、ざわついた雰囲気となったことを今でも覚えています。

私の場合には、どちらで呼ばれても特に感じることはないのですが、どんな気持ちを持って呼んでいるのか、そこだけは気になります。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕