日々修行272 冷や飯食いの“ご馳走”

長らく書き手をしてきた私は、予算をつけにくい仕事のギャラは原稿料としてもらうのが普通のことでした。原稿料は400字詰め原稿用紙1枚で、500円以下の人から2万円以上という開きがあって、要は支払う側の判断で、いかようにも調整できる“便利なもの”でした。

そうはいっても相場は存在していて、あまりに相場とかけ離れていると税務関係で疑われることになります。そのような心配があるときには、他にはない原稿、これまでにない原稿の執筆料金ということにしますが、前回(日々修行271)触れた朝食会での役回りはスピーチライターの原稿料でした。

朝食会は平日の早朝に、経済各社の重鎮(会長や元社長など)がホテルに集い、20人がテーブルを囲う形で1時間ほどの会合が行われていました。その朝食会は表向きには“有志”による開催ということにはなっていましたが、いつも同じゲストが呼ばれていて、誰が実際に主催者なのかは明らかでした(誰も口にはしなかったのですが)。

ゲストは最新情報のスピーチをするのが定例で、朝食会の参加者は毎日違うといっても、同じ話をするわけにはいきません。そこで世界情勢に即した話をするための基本原稿が必要になります。

その原稿の分量は400〜800字でした。その原稿を400字詰め原稿用紙1〜2枚にまとめるのがスピーチライターの役割で、それが私に回ってきました。

毎日、違う内容にするには、それなりのリサーチが必要で、前日に書いたものを当日の早朝に起きて、すぐにチェックします。チェックというのは、事実関係が変わっていないことを確認する作業で、朝になって書き直さなければならないことが何度もありました。

ときには、私の人脈や通信会社(電話やネットの会社のことではなくてニュース配信会社)、紹介された霞が関のお役人などに確認することもあって、原稿だけでは修正部分が伝えられない内容のときには、ホテルまで呼び出されることもありました。

ときどきではあったものの、秘書がクルマで迎えにきたり、そのクルマにゲスト本人がいて、レクチャーしながら会場に向かうということもありました。

1時間の朝食会のあとは、個別に参加者が別室で話をするという形でしたが、その別室の話には、常にゲストが参加していました。その場には、参加をしたことはなかったのですが、秘書から聞いたのは、私の原稿に関わる話は一切出ることはなくて、何やら“密談”がされていたことだけでした。

スピーチライターの原稿料としてもらっていたのは、収益の1%という約束でした。朝食会の参加費は1人が3万円で、参加者は20人であったので、1回の売り上げは60万円でした。経費(料理代、会場費)がかかるということで、収益は30万円、これが月に20日なので600万円、その1%なので6万円という計算でした。

原稿用紙で計算すると1枚だと3000円、2枚を書いたときには1500円という、安いと感じるものでした。それなのに、「冷や飯食いの“ご馳走”」と朝食の中身のことではなくて、政権野党時代の“冷や飯食い”の時期に“ご馳走”を食べていたということで、影の主催者には、よい売り上げのご馳走であり、私にとっては、よい勉強の場になっていたからです。

この状態は2年ほど続き、平日には昼寝を2時間ほどして、1日の仕事が終わってから、スピーチ原稿を書くという習慣がついてしまいました。その習慣は、このホームページの原稿を夜になって書いて、朝にチェックしてアップするという今につながっていることです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕