ゴーストライターというのは以前からある仕事で、私も26歳のときから著者に代わって書籍の原稿を書くということを66歳までやってきました。
このことについては、日々修行や他のコラムの中でも触れています。
書籍だけでなくて、雑誌やネットコラムまで著名人に代わって原稿を書くというのは普通に行われていることで、原稿を読んでいるのかフリートークなのか判断しようがないラジオ番組でもゴーストライターが大活躍しています。多くのラジオ局では、放送作家と呼んでいます。
今回のお題の「ゴーストシンガー」は、本人の代わりに歌う歌手のことを一般には指していて、いわゆる“口パク”の声を務めている人のことを指しています。
ゴーストシンガーにしてもゴーストライターにしても、ゴーストの人の成果は耳にしたり、目にしたりすることはできます。ところが、音楽業界では、一般には見られず、聞くこともない本当のゴースト(幽霊)のような存在がいます。それはリハーサル歌手です。シンガーと呼ばれないのはタレント扱いされていない証拠といえます。
私がリハーサル歌手を知ったのは、テレビ番組の歌唱のリハーサルで実際の歌手の代わりに歌って、生バンドと合わせるというシーンでした。その後に実際の歌手と合わせてから本番という形です。
歌手によって音域が違うので、何人かのリハーサル歌手(男女それぞれ3人くらい)を用意しておくのが普通でした。
私がリハーサルに立ち会うことになったのは、2人の台湾出身の有名な女性歌手を日本に連れてきた大手広告代理店のテレビ局OBの依頼で、マネージャーの代わりをさせられていた関係からです。
2人の音域のリハーサル歌手が都合で来られなくなったのですが、女性歌手の1人は新曲をテレビ初披露するということで、他のリハーサル歌手が譜面をもらっても歌えないということになりました。
その女性歌手のレッスンに付き合っていたことと、学生時代は小さな合唱団にいたので譜面には慣れていたということ、そして当時はかなりの音域が出せたということもあって急遽、女性のリハーサル歌手のゴーストシンガーをすることになりました。
それがきっかけで、2人の女性歌手の新曲のバンド合わせに呼ばれるようになり、芸能界の苦労に別の苦労を重ねるようなことになりました。
今ではコンサートでもなければシンガーとバンドが音合わせをすることはなくて、リハーサル歌手が登場することはありません。テレビ番組の生放送でもカラオケ音源を使うのが当たり前になっていて、以前のようにスタジオで生バンドが演奏することもなくなり、リハーサル歌手の需要は皆無に等しくなりました。
歌手や芸能人を目指していたのなら、よい機会と言えないこともないものの、他に仕事が複数あり、できるだけ余計なことをしないと宣言しながらも、次々に仕事が入っていた時期だったので、好きな音楽の世界であっても苦労としか感じない時期でした。
なにしろ、マイクを持って歌う直前までペンを持って原稿を書いていて、歌い終わったら、すぐにペンを持ち直して、書き続けるという慌ただしさでした。
それがリハーサル歌手のゴーストシンガーが、とてもよい機会だったかもしれないと感じたのは、本当のゴーストシンガーの話が舞い込んだときでした。誰の声を務めたのかということは、絶対に言えない(墓場まで持っていく)ことですが、先日も懐かしの音楽番組で、一部だけでしたが、自分の“若かった頃の声”を聞くことになりました。
ゴーストシンガーが仕事になったわけではないものの、そのおかげで音楽業界と深く関わることにはなりました。
それ以前にクラシック音楽の専門誌の取材、テレビ局(全国キー局)との関わりがあったのですが、ゴーストシンガーを経験して音楽業界の裏事情を知り、言ってはいけないことを知り、別の目線から見ることによって、その後のメディアとの関わりの役に立ったのは間違いないことです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕






