日々修行335 “臭い飯”の正体

「臭い飯を食べたことがある」などと発言すると、刑務所に収監されたことがあるのかと勘違いされかねないところですが、私が食べたのは刑務所の給食の指導をしている栄養の研究者の社員研修の場でのことでした。

私が研修に参加させてもらったのは、たまたま指導している人を指導する立場の先生を知っていたからで、その荒井光雄先生は産業栄養指導者会の初代の会長で、私が事務局の広報をしていたことから、たまたま打ち合わせの機会が研修の時間と重なったからです。

これは30年ほど前のことで、荒井先生は、その当時は刑務所給食だけでなく、産業給食全般の指導者として広く知られていました。だから、産業栄養指導者会の初代の会長をお願いしていたのですが、荒井先生といえば日本の食事の1単位の80kcalを提唱した方として、あまりに有名でした。(あくまで限られた業界だけの話ですが)

日本の栄養学の基本が80kcalとなったことについては、日々修行の連載の中でも、ホームページの食に関わるコラムの中でも登場していますが、ここで再確認で記載しておくと、それは第二次世界大戦後の食糧難の時代を経ての話です。

食べ物の物価が高く、肥料や飼料が少ないことから、野菜、果物、卵などのサイズが小さくなり、魚や肉の一切れの量も少なくなっていました。こういった実態を受けて、昭和29年(1954年)に開催された第1回日本栄養改善学会で、「現時点での食生活では食品の目安量は100kcalより80kcalに近い」との発表があり、食事療法が特に重要である糖尿病などで80kcalを目安とする食事指導が検討されました。

その発表をしたのが荒井先生ですが、戦後の食糧難を背景とした80kcalを基本とする栄養学は、戦後80年を迎えた今(2025年)も続いています。

“臭い飯”は、米騒動に関連したメディア報道では古米のことだと伝えられることもあるのですが、新米として市場に出回った時期から1年が過ぎたものは古米となります。この古米の品質が急に低下することはありません。

同じ品質の新米と古米(1年経った米)を食べ比べれば違いはわかるかもしれませんが、あまり味わいに気を配らない人などは気づかないことが多いはずです。炊き方によっても、少し手を加えることによっても味は変化することから、古米を新米かのように提供することは可能です。

私が食べた“臭い飯”は本当に臭くて、これは“古”が3つもつく「古古古米」でした。今では“古”が4つもつく「古古古古米」でも臭いこともなければ、まずいこともないと評価されています。

私が食べたのは、当時の刑務所で使われていた「古古古米」ではなくて、「以前の臭い飯は本当に臭かったのだということを知るため」という目的で、わざわざ保存状態を悪くしたものでした。

そのような米であっても、保存や加工によって、おいしく食べられる(味の評価には個人差があることですが)ということを心に刻んでもらうための研修でした。

そのままであったら臭い飯になるかもしれない古い米(古古古米)が、どのようなことをすると“おいしい米”に変えられるのかという話と、その問題点については次回(日々修行336)に続きます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕